<社説>新労働制度 なし崩し的導入は禍根残す


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 世界的に日本は「長時間労働国」の域にあり、過労死が後を絶たない。働き過ぎを防ぎ、それを強いる企業を戒める方策、労働者を守る手だてが尽くされていないのだ。

 こうした中で、時間の制約のない働き方を助長しかねない新たな労働制度の導入が大詰めを迎えつつある。強い違和感を禁じ得ない。
 厚生労働省の労働基準法改正案の概要が明らかになった。働いた時間でなく、仕事の成果で賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度導入を盛り込む。
 一定の要件を満たす労働者を労働時間規制の適用から外し、企業側は残業代を支払わないで済むことが可能となる。労働時間は自らの裁量で決められる一方、賃金は成果で決まる。重要なのは、企業側に残業代支払いや労働時間管理の義務がなくなることだ。
 「柔軟な働き方」の響きは良いが、残業代を抑制したい企業側だけが得する制度になる恐れが否めず、労働団体から「残業代ゼロ制度」「過労死を促進する」と手厳しい批判が噴き出している。
 政府は2014年6月、労働者側代表が不在の産業力競争会議で新労働制度を提案し、導入が決まった。働く者にとって最も重要な労働時間の制度変更が「働かせる側の論理」で決められた経緯がある。
 当初の政府方針は対象者を年収「1千万円以上」などとしていたが、厚労省案は労基法が高度な専門職の基準とする「1075万円以上」に引き上げる。職種は金融の売買担当者やシステムエンジニアなどが想定されている。
 厚労省は当初より対象者を絞り込み、健康を損なわないため、休日取得の義務付けや在社時間の上限などを設ける考えを示している。対象者は「職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する、会社と強い交渉力を持つ人」だが、会社の権限が強い日本社会で従業員が強い交渉力を発揮し、自身の働き過ぎを防ぐケースはまれではないか。
 仕事の進め方や時間を個人に任せる「裁量労働制」でも、対象を現在の研究、企画業務から一部営業職にも広げることが検討されている。
 会社が求める「成果」を挙げるまで際限なく働かされる労働者が出てしまう恐れがある。長時間労働の懸念が付きまとったまま、なし崩し的な新労働制度導入は将来に禍根を残す。働き過ぎの明確な防止策を確立することが先決だ。