<社説>医療保険改革 時期ずらし徹底論議を


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 医療保険制度は国民全員の生活の基礎となる制度である。その改変は広く論議し、広範な理解の下に行わなければいけないはずだ。

 厚労省は8日、医療保険制度改革の骨子案を自民党に提出した。だがこれは11月13日に公表予定だったものだ。解散総選挙が報じられた途端、公表を見送り、選挙の争点化を避けて官僚だけで取りまとめた。あまりに姑息(こそく)な対応と評さざるを得ない。
 2015年度予算案の閣議決定は14日の予定だ。それを6日後に控えたこの時期に提出するのでは、変更を加えるのは難しい。これでは官僚主権国家そのものだ。新制度の時期をずらし、15年度予算からいったん切り離した上で、改革の方向性を論議すべきだ。
 改革案の要点は数点ある。まずは75歳以上の保険料を最大9割軽減する現行の特例措置を段階的に縮小し、17年度に廃止することだ。08年に後期高齢者医療制度が始まった際、「姥捨山(うばすてやま)」と批判されたのを受けて導入した措置である。
 2点目は75歳以上の医療費に現役世代が払う支援金の計算法を変える点だ。大企業社員が入る健康保険組合と公務員の共済組合の負担は増える。一方、中小企業社員が入る協会けんぽは負担が減るが、その分、国の補助金も減るから加入者の負担は変わらないという。
 各組合の負担が、頭数に応じた方式から所得総額に応じた「総報酬割」に変わるためである。負担能力に応じて負担するという意味では妥当な改革といえなくもない。
 ただいずれも、方向性の是非はともかく、生活に直結する以上、広く論議し周知を図るべきだった。選挙後に持ち出すのはおかしい。
 3点目は国民健康保険(国保)の運営が市町村から都道府県に移ることだ。現行では各市町村が保険料を決める。確かに、同一県内に住んでいて所得が同じでも保険料が異なることには不公平感があった。その意味で、県内で統一することに理解はできる。
 ただ、赤字構造の国保を県に一方的に押し付けるのではいけない。新制度は国費の投入を想定しており、評価できるが、財源の担保を求めたい。
 沖縄では沖縄戦の影響で国からの前期高齢者交付金が極端に少なく、国保の赤字が構造化されている問題がある。沖縄戦の犠牲の上にさらに犠牲を強いるのは明らかに理不尽だ。その抜本的解決も新制度で併せて図ってもらいたい。