<社説>漁業協定予備会合 国策の犠牲沖縄に強いるな


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 日台漁業取り決め(協定)の2015年以降の操業ルール策定に向けた会合が物別れに終わった。操業する漁船間の距離で、日本側と台湾側が折り合わなかったためだ。排他的経済水域(EEZ)の境界線の認識でも双方が対立した。

 協定締結から1年9カ月になるのに基本的な案件で双方の溝が埋まらず、操業ルールを作ることができない。そもそも外交的な思惑で政府が協定締結を急ぎ、操業ルールを定めないまま見切り発車をしたことに大きな問題があった。その代償を沖縄の漁業に払わせてはならない。
 日本側は安全操業を維持するための漁船距離として4カイリ(約7・4キロ)を主張してきた。それに対し、台湾側は操業可能な漁船の減少を避けるため1カイリ(約1・85キロ)を主張している。これまでの会合でも漁船距離で双方が対立し、操業ルール策定の壁となってきた。
 忘れてならないのは日台漁業協定が日本のEEZ内での台湾漁船の操業を認めるなど、台湾に大幅譲歩した内容であることだ。しかも、台湾漁船は大型で数も多く、沖縄の小型漁船は不利な状態にある。懸念される漁船同士の衝突や漁網切断のトラブルも起きた。
 漁船間隔について沖縄の漁業関係者は「4カイリなら縄のもつれも減って事故を回避でき、資源の保護にも役立てる」と説明している。沖縄漁業の安定的な収益と安全操業を維持する上で、4カイリの漁船間隔の主張は妥当だといえよう。
 このような声を踏まえ、政府は台湾と交渉してほしい。この海域での安全確保は協定の締結当事者である政府の責務である。
 日台漁業協定締結の背景をいま一度振り返りたい。1996年に始まった日台漁業交渉は10年以上も目立った進展はなかったが、安倍政権下で急展開した。尖閣問題で領有権を主張する台湾と中国の共闘を阻むため、日本側が漁業権を台湾側に譲ったためだ。
 尖閣問題を優先し、沖縄の頭越しに台湾の間で拙速な協議を進めた結果、沖縄の漁業は好漁場を狭められ、著しい不利益を被る結果となった。米軍基地と同様、沖縄に国策の犠牲を強いる構図を見ることができる。
 沖縄漁業の振興を図り、海上での不用意なトラブルを回避するためにも操業ルールを早期に策定しなければならない。そのことが、台湾と共存共栄できる豊かな海を目指す上での大前提であるべきだ。