<社説>免許制度見直し 高齢者の「足」確保が不可欠


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 高齢者による交通事故を減らすため、警察庁は75歳以上の運転免許保有者が対象となる認知機能検査で、認知症の疑いがある全ての人に医師の診断を義務付ける方針だ。次期通常国会に道交法改正案を提出する。

 交通事故の死者が年々減る中で、65歳以上の占める割合は増え、2014年は53・3%で統計がある1967年以降で最高となった。
 交通事故を防ぎ、高齢者の命を守るための対策は急務だ。同時に生活の手段として車が欠かせない地域で暮らす高齢者の「足」を確保する取り組みが必要だ。
 センターラインを越えて蛇行運転する。交通標識や信号などの交通規則を守る気がなくなる。逆走する。どこへ行こうとしているのか分からなくなる。
 認知症ドライバーに多く見られる特徴という。一つ間違えれば大事故につながりかねない。それを防ぐため09年から認知機能検査を取り入れた。
 検査は、記憶力と判断力が低く認知症が疑われる1分類、少し低い2分類、心配のない3分類で判定される。現在は1分類でも違反がなければ、認知症の疑いが残りながらハンドルを握ることになる。
 認知症は急に症状が悪化することがあり、2分類でも免許更新の3年間で発症する恐れもある。
 検査に限界もあろう。診断の義務付けとともに、自主返納を促す取り組みも欠かせない。
 車が暮らしの足になっている地域もある。車を運転できなくなることは、深刻な問題でもある。足を奪われると、買い物さえままならない高齢者がいる。
 高齢者の移動の手段を確保するため、公共交通機関を無料にしたり、割引率を高めたりする取り組みが求められる。過疎地では行政などがコミュニティーバスを走らせるなど高齢者の需要に応えられる仕組みが欠かせない。
 徒歩で行ける範囲に生活空間が収まった「コンパクトシティー」構想も有効だろう。福祉全体の中で高齢者の移動手段の確保を考える必要がある。
 「認知症800万人時代」と言われる。団塊の世代がその年代になれば、問題はさらに深刻になる。認知症を患わなくとも、高齢になれば誰もがやがて運転できなくなる。高齢者の問題ではなく、私たちの問題として高齢者の移動を支える取り組みを考えたい。