<社説>邦人殺害警告 人質解放に総力尽くそう


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 過激派「イスラム国」とみられるグループが、身代金2億ドル(約235億円)を72時間以内に支払わなければ、拘束している日本人2人を殺害すると警告した。人質となっているのはフリージャーナリストの後藤健二さん(47)と湯川遥菜さん(42)の2人。罪のない第三者の命を取引材料にする卑劣な行為に正当性はみじんもなく、断じて許されない。イスラム国は人質を速やかに解放すべきだ。

 日本政府には、人命を第一とし、情報収集をはじめ関係各国との連携を緊密にすることが求められる。菅義偉官房長官は、72時間の期限が23日午後2時50分ごろとの認識を示した。イスラム国に殺害を思いとどまらせるよう、あらゆる手段を使って働き掛けを強めてほしい。その上で、国際社会を挙げて、人質全員が解放されるよう総力を尽くしてもらいたい。
 イスラム国は昨年8月以降、人質に取った米英人の記者ら5人を殺害。首を切る残虐な映像を次々と公開し、世界を震撼(しんかん)させたことは記憶に新しい。日本がその標的にされたことは極めて遺憾だ。
 殺害警告は、安倍晋三首相が中東歴訪中に発せられた。首相が表明したイスラム国対策への無償資金協力の2億ドルを身代金の根拠とするが、歴訪のタイミングを見極めた上で、日本を狙い撃ちにしたのだろう。テロ撲滅に取り組む関係各国の足並みを乱そうとするほか、日本社会の動揺を誘って分断させる狙いもあるとされる。
 ビデオ声明では「日本は8500キロも離れていながら進んで(イスラムの地を侵略する欧米の)十字軍に参加した」と非難したが、言い掛かりにも程がある。自らに都合良く解釈したイスラムの教義を振りかざし、迫害や殺りくを繰り返す過激主義そのものを直ちに放棄すべきだ。
 首相や官房長官は対策費について、難民に食料や医療を提供する「人道支援」と強調しているが、イスラム国が聞く耳を持つ可能性は低いとされる。中東歴訪前の情報収集や危機管理対策は十分になされたのか、今後の検証作業も必要だろう。
 仏紙銃撃テロなどもあり、イスラム社会への視線は厳しさを増しているが、イスラム国など過激派と同一視することは決してできない。宗教や民族を超え、相互理解を深める国際社会の取り組みもまた、急務といえる。