<社説>人質殺害映像 後藤さん解放に手を尽くせ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 残念でならない。

 「イスラム国」が日本人2人の身代金を要求していた件で、湯川遥菜さんが殺害されたことを伝える後藤健二さんの映像がネット上に流れた。日米両政府は画像の信ぴょう性は高いと判断している。
 湯川さん殺害を伝えた英語の音声は、ヨルダンに拘束されている女性死刑囚の釈放を要求している。
 死刑囚の交換を新たな解放条件にした真意は分からないが、友好関係にある日本とヨルダンを揺さぶる狙いがあるかもしれない。日本政府はあらゆる手段を駆使し、一刻も早い後藤さん解放にこぎ着けてほしい。
 イスラム国側の残虐な行為には憤りを禁じ得ない。湯川さん救出を切望する後藤さんに、殺害されたとみられる湯川さんの画像を持たせた。卑劣で人道に反する行為は断じて許されない。
 ヨルダンの戦闘機が昨年12月、イスラム国支配地域で撃墜され、操縦士が人質に取られている。2005年に自爆テロを起こした死刑囚との交換が検討されていたとのヨルダンメディアの報道もある。後藤さん、操縦士と死刑囚の交換は選択肢になるかもしれない。日本とヨルダンの緊密な連携によって解放交渉の道筋を付けてほしい。
 国際社会は「イスラム国」の膨張阻止に全力を上げるべきだ。最近では原油価格の急落で資金調達に苦しんでいるとみられる。戦闘員や資金、武器の流入阻止のため、一層厳しい包囲網を構築して追い込むことが有効だろう。
 「イスラム国」はイスラム国家樹立という明確な目標を掲げ、目的に合致する実利的な行動を取る。土地を支配下に置き、油田を押さえて原油を密売し資金力を得た。独自の通貨も発行する。
 シリアの支配地域では税も徴収するが、アサド政権より公正かつ税額も少ないという。道路を補修し、食糧配給所を設置した。半面、スンニ派でも特に厳格なサラフィー主義への改宗を強要し、従わなければ処刑し、奴隷にする。猛烈な暴力とアメの使い分けで支配しているのだ。
 注意すべきなのは、安易に武力攻撃に走る危険性だ。イラク戦争では空爆などで女性や子どもを含む多数の住民が殺された。それは「イスラム国」勢力拡張の背景にある。無辜(むこ)の民が巻き添えになれば、新たなテロの連鎖を誘発しかねない。非軍事的手段を徹底して追求すべきだ。