<社説>認知症国家戦略 当事者中心の理念貫こう


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 政府は、認知症対策を強化する国家戦略「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を決定した。2025年に認知症の高齢者は推計700万人前後に達し、65歳以上の5人に1人となる見通しだ。誰もが関わる可能性が高い病気であり、対策は待ったなしだ。

 戦略は「適切な医療・介護の提供」「本人や家族の視点の重視」など七つの柱を設定した。政府には「当事者中心」の理念をなおざりにすることなく、網羅的に盛り込まれた施策の着実な推進を求めたい。
 あえて当事者中心を念押しするのは、精神科病院の役割を強調する文言が最終段階で盛り込まれたからだ。「入院も(医療、介護の)循環型の仕組みの一環」などだが、自民党議員らの強い要望があったとされる。そこからは、病院経営に配慮する「サービス提供者中心」の思惑が透けて見える。
 日本では、多くの認知症の人たちが長期間、精神科病院に入院している実態がある。老人ホームや在宅でケアすることが多い欧米に比べ、当事者視点が欠落している象徴の一つだ。そもそも認知症の人たちを社会から遠ざけ、病院に閉じ込めようとする発想自体が時代遅れだと肝に銘じるべきだ。
 また国内では、興奮などを抑える抗精神病薬が08~10年、本来なら適用外の認知症患者の5人に1人に処方されている実態も明らかになっている。暴言や妄想などの行動症状に使われるが、副作用のリスクが問題視され、欧米では処方割合が大幅に減っているのとは対照的だ。国家戦略の決定に当たり、認知症の人たちを病院に隔離し、抗精神病薬に頼る現状からの決別こそ誓うべきだろう。
 それこそ認知症対策は、徘徊(はいかい)、詐欺被害、交通事故、虐待など各分野にまたがる。住み慣れた地域で認知症の人たちや家族、周辺住民が共に暮らしやすい社会をいかに構築するかが問われよう。本人や家族をサポートするかかりつけ医や看護師、介護福祉士ら専門家スタッフをはじめ、温かく見守る地域の連携と協力がより重要になるゆえんだ。
 超高齢化社会の進展に伴い、1人暮らしのお年寄りや老夫婦だけの世帯が増え、そうした人たちが社会から孤立を深めている懸念も指摘される。認知症対策は、希薄になりつつある家族や地域社会の絆を再構築する取り組みでもあることを強く認識したい。