<社説>伊良部大橋開通 島の未来切り開く礎に


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 「橋があれば、救えた命があった」。沖縄の多くの離島で語られてきた哀感を帯びた言葉だ。船が沈没したり、悪天候で島から出られず、治療を受けられないまま命を落としたりした人たちがいる。

 1939年に伊良部島の近くで起き、73人が亡くなった「伊良部丸遭難事故」も「橋があれば…」を想起させる歴史的事故だ。深い悲しみを歴史に刻み、伊良部島民は「架橋を求める原点」として語り継いできた。
 「離島の離島」とも称された伊良部島と宮古島を結ぶ全長3540メートルの伊良部大橋(総工費約395億円)が31日に開通する。最初の要請から40年を経て悲願が実り、島は喜びに沸いている。無料で通れる橋としては国内最長で、県内最長の橋ともなる。
 「夢のまた夢」とも言われた大事業を熱意あふれる行動で実現した伊良部島と宮古島の人々、それに応えた関係者に敬意を表したい。
 沖縄で「しまちゃび(離島苦)」は悲しみと苦衷を宿す言葉として用いられてきた。離島苦を解き放つ最も有効な策は架橋である。
 待望久しい大橋開通によって人と物の往来が着実に増し、救命救急への備えも万全になる。児童・生徒の教育環境、社会資本の整備、経済の活性化につなげ、5400人余の伊良部島民の未来を切り開く礎にしてもらいたい。
 宮古島、伊良部島と隣り合う下地島、池間島、来間島の主要5島が陸路でつながる。5市町村が合併した宮古島市の誕生から10年の節目を迎えることし、「宮古は一つ」の心意気が一層高まろう。
 「青海原と夕日に映えるいらぶの道」をうたう大橋が海峡をつなぎ、澄み切った青い海と両端に浮かぶ2島の緑がコントラストをなす眺めはまさに絶景だ。観光資源としての魅力にあふれている。
 その証拠に25日にあったウオーキング大会には県外客約700人が訪れ、絶景を堪能した。
 4月の全日本トライアスロン宮古島大会から自転車のコースに伊良部島が加わり、彩りを添えることは喜ばしい。県、宮古島市、観光関係者が結束し、県内外の宮古・伊良部ファンを増やして来島に導く取り組みを強化してほしい。
 独自の歴史と豊かな自然を持ち、神事や祈りが暮らしに根差す伊良部島の魅力を発信する知恵も問われる。若者の流出など懸念される問題への目配りも欠かせない。