<社説>戦後70年首相談話 侵略への反省欠かせない


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 「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」
 第2次大戦終結40年の1985年、ワイツゼッカー西ドイツ大統領(当時)が議会で演説した内容は世界的反響を呼び起こした。

 戦争と国家、歴史認識と政治のあるべき姿を示し、その道標と評価された。この名演説は侵略戦争の責任と真摯(しんし)に向き合うドイツの信頼を高め、世界中で翻訳されて出版された。
 安倍晋三首相はワイツゼッカー演説をどう記憶にとどめ、どんな見解を持っているのだろうか。戦後70年のことし、安倍首相が出す談話を懸念する声が噴出している。
 日本国民だけで310万人、沖縄県民12万2千人(軍人・軍属含む)が犠牲になった太平洋戦争を終えて10年ごとの節目は、日本が戦争の反省を深め、平和を確立する誓いを新たにする貴重な機会だ。
 8月にも出す戦後70年談話をめぐり、安倍首相は戦後50年に村山富市首相が発表し、戦後60年で小泉純一郎首相が引き継いだ「植民地支配と侵略」「痛切な反省」「心からのおわび」などの柱の部分の継承に否定的考えを示した。
 植民地支配と侵略を決して正当化しない決意を宿した両首相の談話は、日本政府の歴史認識として定着し、世界から評価され、アジア外交の礎になってきた。
 ところが、首相は1月25日のテレビ番組で「今まで重ねてきた文言を使うかどうかではなく、安倍内閣としてどう考えているかという観点から出したい」と述べた。村山・小泉談話の根幹を踏襲しないと受け取れる驚くべき発言だ。
 首相はその後の国会答弁で「歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」と幾分軌道修正したが、疑念は消えていない。
 日本が犯した植民地支配や侵略をしっかり認めないなら、村山・小泉談話の「全体的な継承」には到底なり得ない。侵略を受けた中国、韓国が反発し、中韓との関係改善を求める欧米諸国から歴史修正主義とのレッテルを貼られることは避けられまい。首相は村山談話の根幹部分を踏襲すべきである。
 首相はアジアや世界の発展に貢献してきた戦後の歩みや、未来への意思を盛り込む意向を強調しているが、侵略戦争への反省が薄まるようでは「平和国家・日本」への信頼を掘り崩す。「未来志向」を語る大前提として「負の歴史」と向き合うことが欠かせない。