<社説>市民を外洋放置 海保は海守る原点に戻れ


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 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、海上保安庁の市民に対する暴力行為に歯止めがかかっていない。2日はカヌーで抗議行動をしていた市民8人が海上保安官に身柄を確保され、沖合3キロの外洋までカヌーごとえい航された。

 1時間拘束した後、海保はカヌーの市民をその場に放置してゴムボートで立ち去った。現場海域は波のうねりがあり、自力で岸に戻るのは困難な状態だった。抗議船が迎えに出て難を逃れたが、そのままさらに外洋に流されて遭難したら、海保はどう責任を取るのか。
 県カヌー協会の渡口亘副理事長は「一歩間違えれば遭難する可能性もあった。海保はむちゃすぎる」と危険性を指摘している。海保は本年度から3年継続で「海の事故ゼロキャンペーン」を展開し、海難防止思想の普及を目指している。
 カヌーの外洋放置は海保自らが海難事故を誘発する危険極まりない行為だ。キャンペーンに自ら反する行為をしておきながら、放置したことを「海上の安全確保」と説明している。あぜんとするしかない。
 外洋に放置しただけではない。カヌーに乗っていた男性によると、いきなり海に落とされて拘束され、さらに頭を海中に沈められた。男性は海水を飲んでいる。なぜこんな拷問のような危険な行為をするのか。溺れるような命の危険にさらすことが「海上の安全確保」だというのか。
 これまでも抗議船に乗船していた女性監督に馬乗りしたり、カヌーの男性の胸を強く押さえ付けて肋骨(ろっこつ)を骨折させた疑いも持たれている。カヌーの乗船者からこぐためのパドルを奪い取り、海に放り投げている。抗議船の船長は乗り込んできた海上保安官に手の指を強く曲げられ、捻挫を負っている。これでは「海上保安庁」とは呼べない。「海上不安庁」ではないか。
 翁長雄志知事が先月26日に第11管区海上保安本部の次長に対し、けが人が出ていることを抗議した。その後も海保によって次々と市民が危険にさらされる行為が続いている。知事の抗議など聞く耳を持たないという姿勢にしか映らない。
 これ以上の市民に対する暴力行為、危険行為は許されない。海上保安庁は海の安全を守るという原点に立ち返るべきだ。