<社説>道徳教科化 「愛国心」強制に歯止めを


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 本当の狙いは何なのかという疑念を持たざるを得ない。子どもたちに「愛国心」を強制し、国に従順を誓う国民の育成を意図したものならば、国民の議論によって歯止めをかけなければならない。

 文部科学省は、正式な教科ではない道徳を教科に格上げするため、学習指導要領の改定案を公表した。新たな指導要領の実施は小学校が2018年度、中学校は19年度となる。
 これまでも校内暴力や少年による凶悪事件の続発を背景に道徳の正式教科化が議論された。それに対し、戦前の軍国主義教育で中心的役割を果たした「修身」の復活を危ぶむ声があった。
 今回の道徳教科化はいじめ問題が契機となった。第2次安倍政権が設置した教育再生実行会議が13年2月、生徒のいじめ自殺への対応として、道徳教科化を提言し、指導要領改定案につながった。
 要領案にある「自分の好き嫌いにとらわれないで接すること」「誰に対しても分け隔てせず、公正、公平な態度で接すること」などの文言からは、いじめ問題への配慮がうかがえる。しかし、これらの指導は道徳教科化を条件とするものではない。現場教師の実践や家庭・地域の教育力向上に任される部分が大きいのではないか。
 今回の要領案で気になるのは愛国心の育成や公共の精神の尊重が強く打ち出されていることだ。特に「国や郷土を愛する態度」の育成を小学1年に前倒しした。国家への忠誠を子どもに植え付けた戦前の「教育勅語」や「修身」の再来が懸念される内容である。
 県民は戦前、皇民化教育、日本への同化教育を経験した。共通語の使用も押し付けられた。教育を通じて、子どもたちは愛国心と国家に従う日本人像を強制されたのである。その帰結が沖縄戦の悲劇であった。「集団自決」(強制集団死)も皇民化教育が影響したことを私たちは忘れてはならない。
 第1次安倍政権下の06年に愛国心教育を重視した改正教育基本法が成立した。その延長線上に道徳教科化を位置付けることができる。教科書検定によって高校歴史教科書の「集団自決」に関する記述から「日本軍の強制」を削除したのも同時期だ。
 戦前回帰的な性格を帯びる安倍政権下で進む道徳教科化を危惧する。国への忠誠を迫る誤った愛国心教育が再び悲劇につながるような事態を許してはならない。