<社説>介護報酬引き下げ 質の低下招いてはならない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 膨らみ続ける介護費用を抑えようと、削減ありきの感がする。

 厚生労働省は2015年度から介護保険でサービス提供事業者に支払う報酬の平均単価を2・27%引き下げる。
 認知症や介護度が高い高齢者でも地域で暮らし続けられるよう訪問介護など在宅支援サービスは、介護報酬を厚くする。人材不足を解消するため「処遇改善加算」も拡充する。一方で特別養護老人ホーム(特養)では大幅減収となる。
 職員待遇を改善しても事業者の収入が減れば、サービスの質が落ちかねない。その結果、介護事業からの撤退となれば本末転倒だ。しわ寄せは高齢者やその家族に深刻な影響を及ぼす。
 見直しを人材確保につなげ、サービスの質の低下も招いてはならない。国はしっかりと目配りしてもらいたい。
 介護保険制度が始まった2000年度の介護費用は約3兆6千億円、14年度は約10兆円、団塊の世代が75歳以上となる25年度はいまの倍になる見込みだ。
 財務省などによると、介護事業者の収入に対する利益の割合を示す「収支差率」は平均8%に達し、特に特養は内部留保が全体で2兆円超に上るという。
 事業者に改善を求めるのは当然と言えよう。しかし、それはあくまで平均値であり、小規模であったり、地域で差があったりするはずだ。収入減と職員待遇の改善が全ての事業者で両立するかは、疑問だ。
 引き下げは消費税10%の引き上げ延期で、社会保障に振り分ける財源の縮小も影響している。
 介護報酬は3年に1度見直される。介護現場の深刻な人手不足解消のため12年度は1・2%、09年度は3・0%引き上げた。人手不足は深刻さが増す中、一転引き下げでは政策の一貫性がないと言わざるを得ない。
 特養を希望しても入れない待機者は52万人に上る。施設整備が追い付かず、在宅生活を送る高齢者やその家族の支援の充実は喫緊の課題だ。家族の介護や看護を理由に職を離れる「介護離職」は年間約10万人に上り、その8割は女性という。介護保険のサービスと負担の枠外でのコストとも言えよう。
 限られた財源をどう効率的、効果的に配分するか。国は広く長期的な視点で社会全体を見渡し、判断することが求められる。