<社説>高齢者虐待防止 社会全体で支えよう


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 厚生労働省の発表によると、家族や親族による高齢者虐待は2013年度で1万5731件と、前年度より529件増えた。前々年度は下回ったが、長期的に見れば漸増傾向にある。

 県内でも150件あった。前年度より減ったとはいえ、痛ましい事態は早急に改善したい。
 家庭内暴力(DV)しかり、児童虐待しかり。暴力、虐待と名の付くものは水面下での発生が表面化したものよりはるかに多い。してみると、これもまた氷山の一角であろう。
 虐待に対する認知度が高まれば通報も増える。以前は発生していなかったのでなく、これが虐待に当たるという認識が浸透していなかったのだといえる。
 高齢者虐待防止法が施行され、周知は進みつつある。社会の高齢化で高齢者は今後も増え続け、中でも認知症は10年後に700万人に達する見込みだ。虐待の抑止は焦眉の急といえよう。
 防止法施行で市町村への通報義務が国民に課された。市町村は自宅や入所施設に立ち入り調査でき、加害者に面会制限を課すこともある。とはいえ、これはいかにも当座の策だ。恒久的な防止策とはとてもいえない。
 認知症になると財布などの置き場所を忘れ、家族が盗んだと疑うなどして感情的な離反を招くなど悪循環が起きやすい。怒りっぽくなるのも特徴だ。こうした特徴が理解されれば心理的な余裕もできる。特性の周知が必要だ。
 育児と異なり、介護は先が見えないのがつらい、ともよくいわれる。先行きの不安が虐待を誘発するとの分析もある。同じ立場の人と語り合えるだけでも心理的に余裕が生まれるという。社会全体での支えが大切なのはそれ故だ。
 虐待の通報は介護支援専門員によるものが多い。この人たちや民生委員を増やし、社会の見守る目を行き渡らせることが有効だろう。併せて、家族を孤立させないために介護関連予算の充実も図るべきだ。見守りに向けた自治体の予算も確保したい。
 一方、介護施設職員の虐待も13年度は221件と過去最多になった。知識不足も背景にあるという。認知症特有の症状を知る研修を充実させたい。介護現場の慢性的な人手不足が誘因となっているだろうことも想像に難くない。介護職員の待遇改善や質の向上に国は本腰を入れるべきだ。