<社説>農協改革 どこが「成長戦略」なのか


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 政府の農協改革の骨格が決まった。全国農業協同組合中央会(JA全中)を社団法人化し、地域農協への監査・指導権限を撤廃する。

 5月の日米首脳会談前の環太平洋連携協定(TPP)合意へ向け、TPP反対の急先鋒(きゅうせんぽう)であるJA全中の影響力をそぐ。そんな「衣の下の鎧(よろい)」がのぞいている。
 農業改革はいつの間にか農協改革にすり替わり、しまいにはJA全中改革に矮小(わいしょう)化された。政府の政策に反対する組織をひたすらつぶすことが目的化した感がある。これのどこが「成長戦略」なのか。
 政府は地域農協に自由裁量を与えれば農家の所得増につながると繰り返した。だがどんな筋道で所得増に至るのか、何ら説明はない。説明のなさが没論理性を物語る。「岩盤規制」に穴を開ければ、何か前進であるかのような錯覚がまん延している。形ばかりの改革は「改革の偽装」と呼ぶほかない。
 農業者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大など、日本の農業が直面する課題は重い。本来はその処方箋を論議すべきであった。
 政府は、TPPで合意したいのなら、反対勢力を弱体化するような姑息(こそく)な振る舞いをせず、国民の前で堂々と合意の意思を示すべきではないか。その是非について、統一地方選で審判を仰ぐのが本来の政治の在り方であろう。
 専門家は、政府の一連の「農業改革」が在日米国商工会議所の意見書の内容そのままと指摘する。米国のための「改革」であり、日本国民の安全網の破壊にほかならないと警鐘を鳴らしているのだ。
 今回の農協改革の方向性からすれば、将来はJAグループの金融事業やスーパーなどは切り離すことになるだろう。そうすれば米国は利益を得やすい分野だけに参入し、大もうけする。中山間地域などの事業は淘汰(とうた)されよう。
 県内の関係者が危惧するように、住民のライフラインに等しい離島のJA店舗も撤退となりかねない。これでは「地域創生」どころか、地域破壊そのものではないか。
 ただ、肥料や農薬、農業機械の高さなど、農協に改善を求めたい点は多々ある。地域独占を廃止し、各農協が価格やサービスを競い合うようにするのも一案だ。併せて、低廉な住環境の提供など若者の参入を促す政策も考えたい。主要国で最低水準の農業予算比率を高め、施策を積極展開すべきだ。