<社説>米ジュゴン訴訟 上級審で審理を尽くせ


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 米軍普天間飛行場の移設問題では米国も当事者である。環境への影響を含め、事態を直視すべきだ。

 名護市辺野古の周辺海域に生息するジュゴンの保護を訴えた沖縄ジュゴン訴訟の原告と、日米の環境団体が米サンフランシスコの連邦地裁に移設計画の中止を申し立てた訴訟で、地裁は訴えを棄却した。新たな基地建設が貴重な自然環境に与える影響について審理を尽くしたとは言えない。極めて遺憾だ。
 同訴訟は2003年に始まった。原告側が訴えの根拠としたのは米国の国家歴史保存法(文化財保護法、NHPA)だ。米政府に、国内だけでなく世界の文化財保護を求めた法律だ。
 ジュゴンは日本の文化財保護法に基づく天然記念物であり、米政府は保護する義務があるというのが原告側の主張だ。だが連邦地裁は「日本政府と進めようとしている基地建設を禁じる権限を持っていない」として訴えを棄却した。論理がすり替えられている。
 原告が求めたのはNHPAに基づく保護手続きの判断だ。「ジュゴン保護の適正な手続きを取ること自体が国家の安全保障を脅かすわけではない」と主張していた。
 連邦地裁は今回、外交や防衛問題には司法が介入できないとする「政治的問題の法理」を持ち出した被告の米国防総省の主張を採用して実質審理を避けた格好だが、この判断には納得できない。
 訴訟では08年、ジュゴンへの影響を評価していないのはNHPA違反との判断が下り、国防総省に保全指針の提出を求めて一時中断した経緯がある。
 国防総省は昨年4月、「ジュゴンへの影響はない」と結論付けた報告を提出したが、日本政府の環境アセスメントなどを踏襲した内容だ。連邦地裁の判断にこの報告が少なからず影響したはずだが、その日本側のアセスは何度も指摘した通り、生物多様性豊かな海域への影響を十分考慮したものとは到底言えない。
 専門家も「独善、時代遅れの最悪のアセス」(島津康男元環境アセスメント学会長)と批判し、自然保護団体などが再実施を求めている。連邦地裁は国防総省の報告を十分検証したのだろうか。
 原告は上訴する方針だ。他国の文化財保護を求めたその尊い法律の基本理念に照らして、米司法は上級審で審理を尽くすべきである。賢明な判断を望みたい。