<社説>中1男子殺害 その命 救えなかったのか


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 少年が発していた異変のサインをなぜ受け止められなかったのか。その命を救えなかったのか。多くの人がそう感じているはずだ。

 川崎市で中学1年の上村遼太君(13)が殺害された事件で、警察は殺人容疑で17~18歳の3人を逮捕した。事件発覚から1週間だ。
 上村君は後ろ手に縛られてひざまずかされ、激しい暴行を受けた末、刃物で首などを何度も切られた。発見された時には服を着ておらず、首の深い傷のほか、全身に切り傷やあざがあった。その恐怖と苦しみを想像すると、胸がつぶれる。
 発見現場に近い公園のトイレ内で上村君の物とみられる衣服が燃やされていた。証拠隠滅を図ったとみられる。残忍極まりない事件の真相究明は今後の捜査に委ねられるが、学校や地域、行政などが悲劇を防げなかったのか。徹底的に検証しなければならない。
 バスケットボールが好きで、明るく元気な人気者だった上村君は、昨年夏ごろから部活に来なくなった。その後、他校の生徒たちと一緒にいる姿が確認され、それは学校側も把握していたという。
 ことしに入ると学校にも来なくなったが、年上のグループから暴力を受けていると友人に打ち明け「殺されるかもしれない」と漏らしていたことが分かっている。顔を腫らしていたのも目撃されている。
 上村君が発したSOSはなぜ届かなかったのか。友人たちの情報が大人たちに早い段階から伝わっていたらと、残念でならない。
 担任教師は連日のように母親や自宅に電話し、遺体発見の4日前には上村君の携帯電話につながった。本人は「学校に行こうかな」と話したという。その時に何かできなかったのか。結果論でしかないが、何とも悔やまれる。
 組織として学校の対応は十分だったのか。教育委員会や児童相談所、警察などを含めて連携できなかったのか。検証すべき点は多い。
 上村君は小学6年の時、島根県の隠岐諸島・西ノ島から家族で川崎市に移住した。島を出る際には数十人が「頑張れ」と見送ったという。都会の生活に上村君らが孤独を感じてはいなかったのかという点も気掛かりだ。
 あまりに凄惨(せいさん)な事件だが、沖縄も決して人ごとではない。後を絶たない少年らの事件をどう防ぐか。どうすれば「異変」に敏感に対応できるか。上村君が発したサインは私たちに突き付けられている。