<社説>邦人救出事例提示 拙速に法整備を進めるな


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 自民党安全保障法制整備推進本部会合で、政府は自衛隊が海外で邦人救出活動に当たる事例として、邦人が多数乗る航空機がハイジャックされた場合など5事例を示した。武器使用を重ねて提起し、威嚇射撃を可能にするよう基準を緩和する考えも示した。海外での自衛隊活動を際限なく拡大する危険な動きに見えて仕方がない。

 政府は先月、安全保障法制の整備に向けた与党協議会で、武装勢力によって在外邦人が人質になった場合、自衛隊を派遣し奪還作戦ができるよう武器使用基準を緩和する意向を示していた。邦人救出をめぐり、正当防衛だけでなく、任務遂行のための武器使用も可能とするよう提起した。
 こうした海外での邦人救出の法整備の動きは過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件が起きてから加速している。
 しかし「イスラム国」の人質事件のように拘束場所の特定が困難な事例にどう対処できるというのか。中谷元防衛相は事件がシリアで起きたことを踏まえ「(当事者である)政府の管轄が及ばず、戦闘が行われており、無理だ」と述べ、限界があることを認めている。
 与党の公明党からも自衛隊の装備や能力の面から「非現実的だ」との指摘が上がっている。さらに自民党の谷垣禎一幹事長も「救出ができるようになっても、自衛隊派遣の判断は非常に難しい。議論を整理する必要がある」と述べている。一方で安倍晋三首相は国会審議で邦人救出の必要性を問われ「国民の生命と財産を守る任務を全うするためだ」と前のめりの姿勢を見せている。
 しかし米国のように無人偵察機を国外で運用している米軍ですら人質奪還に失敗する例もある。自衛隊員の安全確保や情報収集能力、装備面からも高いハードルがあるのは明らかだ。防衛問題の専門紙で、自衛隊内に読者が多い「朝雲」は「自衛隊が人質を救出できるようにすべきだとの国会質問は現実味に欠けている。無責任」と批判した。
 先月の共同通信社の世論調査では日本人の安全確保の取り組みについて「日本人救出のため自衛隊を海外に派遣できる法律の整備」を挙げたのは、わずか12・6%だ。国民の多くが自衛隊派遣を否定的に見ていることを直視すべきだ。与党内でも異論がある。拙速に法整備を進めるべきではない。