<社説>日台漁業取り決め 海の自己決定権の回復を


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 沖縄の海で当事者の最大の主張が受け入れられなかった。

 日台漁業取り決め(協定)の対象水域での来年度の操業ルールを決める日台漁業委員会が終了した。八重山諸島北側の三角水域の一部で、日台の漁船が昼夜で交代して操業することで合意した。しかし、安全確保のため沖縄側が強く求めていた全水域で、船間4カイリ操業の適用は認められなかった。
 沖縄には海に関する自己決定権がある。その権利を無視して台湾との間で漁業取り決めを結んだ日本政府の責任は重い。沖縄は失われた権利回復のため、粘り強く取り組む必要がある。
 八重山諸島北側三角水域の一部での日台漁船による昼夜交代操業合意によって、日本側は日本漁船の安定操業を確保したと評価する。しかし、漁民は全域で安定操業を望んでいるのであり、全く不十分な内容だ。
 一方的な漁業取り決めによって、沖縄の漁民が安心して操業できる海域は、八重山諸島北側の三角水域の一部と、久米島西側の特別協力水域の一部しかない。
 船間距離1カイリなど台湾の漁法で操業する南側のうち、東経126度線から西側に5カイリの水域で、日本の小型漁船に配慮し台湾のはえ縄漁船は「可能な限り投げ縄をしない」とした。「可能な限りしない」とはあいまいだ。日本側は「行わない」と説明するが、台湾側はそう解釈するだろうか。
 8月から3月までの間、台湾はえ縄漁船は「適切な船間距離」を確保し、日本の小型漁船の操業に「配慮」するとした。具体的な数字を入れていないため、日台で解釈の違いが生じてもおかしくない。日本は4カイリと取るかもしれないが、台湾はそう受け取らないのではないか。
 1996年に始まった日台漁業交渉は10年以上も目立った進展はなかったが、安倍政権下で急展開した。尖閣問題で領有権を主張する台湾と中国の共闘を阻むため、日本側が漁業権を台湾側に譲ったためだ。拙速な協議の結果、沖縄の漁業は好漁場を狭められ、著しい不利益を被っている。
 日本の排他的経済水域(EEZ)内で、日本の法律が適用されるのは当然だ。国連海洋法で認められている権利すら棚上げするのが現在の日本の姿だ。まずは奪われた沖縄の海の自己決定権を回復させる必要がある。