<社説>与那国計画見直し 人の交流こそ発展の鍵だ


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 活性化する地域には共通する特徴がある。人と人が出会い、交わる機会を工夫して増やしているのだ。活性化の鍵は何より交流の分厚さである。逆にいえば、交流のない場所に発展はない。

 そう考えるとこの方針転換は納得し難い。外間守吉与那国町長は、台湾との交流拡大をうたう10年前策定の「与那国・自立へのビジョン」を見直す意向を表明した。
 陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備が町づくりの大きな要素になるとし、「ビジョンの見直しはおのずと不可欠」との考えを示した。
 だが、にわかには得心のいかない話だ。確かに陸自配備は住民投票で賛成票が上回った。配備を進める状況が生じたのは間違いない。だが、自衛隊を配備するにしても、台湾との交流拡大を引き続き目指して何の不都合があろう。
 自衛隊の配備計画はこのビジョンに入っていないし、ビジョンの末尾の地図にも自衛隊基地は記入されていないが、別途考えればよい話だ。もし町が、陸自配備で活性化のめどが付くと考えているなら、大いに間違っている。
 長崎県対馬の例が参考になる。対馬では1960年以降、海上、陸上の自衛隊の配備が順次拡張された。だが60年に7万人近くいた地域の人口はその間も減少の一途をたどり、先月末には約3万3千人と半分以下になっている。そもそも自衛隊で活性化するなら日本中の自衛隊基地周辺は発展していそうだが、寡聞にして聞かない。
 一方で、対馬は今、活況を呈している。韓国人観光客が多数訪れるようになったからだ。低料金で行ける至近距離の海外として人気のようだが、江戸時代、朝鮮通信使が江戸へ向かう際に必ず寄った歴史、朝鮮式山城などの史跡も引き付ける要素になっている。してみると、文化を核にした人の交流こそが活気の源といえよう。
 与那国が今回見直すのは、「地域間交流特別区」が困難という要素が大きい。外間町長は「台湾とは経済規模が違い過ぎる」として直行便開設や開港など、「物の交流」拡大の側面を見直す意向のようだ。
 半面、台湾との「人の交流」拡大は今後も目指すという。ぜひ拡大を掲げてほしい。国境を「行き止まり」でなく外に開かれた「発展の先端」にするためにも、人の行き来は欠かせない。何よりそれが最大の安全保障政策にもなろう。