<社説>海保艇追突 事故責任うやむやにするな


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 海の安全を守るべきはずの海上保安庁のあまりに危険極まりない行為に驚くと同時に、強い憤りを禁じ得ない。

 米軍普天間飛行場の移設に向けた新基地建設作業が進む名護市の大浦湾で、移設に抗議するため、臨時制限区域を示すフロートを越えた男性2人のゴムボートに、海上保安庁の特殊警備救難艇が追突し、ボート後部にいた男性に乗り上げた。
 幸いにも大けがには至らなかったが、男性は左肩の痛みと恐怖を訴えており、一歩間違えば、最悪の事態になりかねない追突・乗り上げ事故だったといえる。
 本紙ホームページに掲載された連続写真などを見れば、海保艇の行為が大惨事と紙一重だったことは一目瞭然だ。身を守るすべもないゴムボートからすれば、全長10メートル、約5トンの海保艇から追突され、乗り上げられる恐怖はいかばかりか。ボートが転覆し男性らが海に投げ出されてもおかしくなかった。
 仮にこれが陸上の追突事故であれば、海保艇が間違いなく、過失が重い第一当事者となる。「けがの有無や救急搬送について尋ねたが答えなかった」(第11管区海上保安本部)からといって到底済まされる話ではない。男性のけがの具合を正確に確認し、海保艇の保安官らから事情聴取をした上で、立件の可否を判断すべきだ。事故の責任をうやむやにすることは決して許されない。
 この日は、制限区域内で抗議のために海に飛び込んだ女性に対し、海上保安官が肩を押さえ付けるようにし、女性の顔が何度も海中に沈み込む様子も確認されている。海保艇や保安官の行為は、海の安全確保や救助どころか、海難を誘発する暴挙以外の何物でもない。
 辺野古沖での移設作業が本格化した昨年夏以降、海保の警備における暴力的な行為は目に余る。抗議船で女性映画監督に馬乗りになってカメラを奪おうとしたり、カヌーで抗議していた市民8人を沖合3キロの外洋で放置したりするなど、映画「海猿」で描かれた海保の姿から程遠い現実には、怒りを通り越して悲しみさえ覚える。
 今月4日には、海上保安官が抗議船船長に「腐れナイチャー」と発言するなど、権力を持つ側からのヘイトスピーチまで飛び出した。海保は、自らの危険を顧みず人命救助を優先する「海猿」の使命を今こそ思い起こしてもらいたい。