<社説>辺野古掘削再開 早急に許可取り消しを 民主主義への挑戦許せない


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 民意に沿わない政治を「悪政」という。政府が民意を無視して米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を強行していることは、まさに「悪政」そのものである。

 沖縄防衛局は12日、新基地建設に向けた海底ボーリング(掘削)調査を再開した。昨年の一連の選挙で示された移設反対の民意を一顧だにせず作業を強行する政府の姿勢は、民主主義への挑戦であり、許せるものではない。
 翁長雄志知事は県民の負託に応え、将来への責任を果たすため、前知事の岩礁破砕許可を早急に取り消すべきである。

 二重基準改めよ

 安倍晋三首相は昨年9月の所信表明演説で「沖縄の気持ちに寄り添う」と述べた。言行不一致も甚だしい。
 県の第三者委員会が前知事の埋め立て承認の是非を検証中は、掘削調査などを見合わせるよう県が要請した翌日、沖縄防衛局はトンブロックを海中に投入した。県が制限区域内でのサンゴ損傷状況などを調査するために依頼した米軍への許可申請あっせんにも防衛局は応じなかった。これが「寄り添う」発言の実態である。
 安倍首相は「丁寧に説明して理解を求める」とも言っていた。だが自らの言葉への責任を一切果たしていない。
 政府が沖縄以外で民意を無視してごり押しすることはないだろう。政府には「沖縄だから何をしてもいい」との意識があると断じざるを得ない。
 米軍もしかり。サンゴ損傷を調査するため、県が求めた制限水域内への立ち入りを「運用の妨げになる」として拒否した。わずか3日間の調査にさえ協力しないのは地元軽視の表れで許し難い。復帰前から続く沖縄の環境を軽視する姿勢は何ら変わっていないということだ。米国内で環境破壊の恐れがあるとして州政府が立ち入り調査を求めた場合も、同様な対応を取るだろうか。
 日本政府、米軍とも恥ずべき二重基準を改めるべきだ。
 昨年の名護市長選、知事選、衆院選などで移設反対の民意が示された。それを無視することは民主主義国家ではあり得ない。
 にもかかわらず中谷元・防衛相は夏ごろまでに辺野古埋め立ての本体工事に着手する考えを示し、掘削調査も再開した。もはや一刻の猶予も許されない状況にある。
 翁長知事は掘削調査再開を受けて「あらゆる手法を駆使して、辺野古に新基地は造らせない」と述べている。岩礁破砕許可を取り消す時期はとうに来ている。決断を求めたい。

 法治国家たれ

 菅義偉官房長官は「埋め立て承認を得ている。法治国家として粛々と行っていくのは当然だ」と移設を強行する考えを繰り返し表明している。少なくとも、岩礁破砕許可に明記された事項を守ってから「法治国家」について言及するべきである。
 菅官房長官が錦の御旗とする岩礁破砕許可には「工事は日の出から日没までとする」「本申請外の行為をし、または付した条件に違反した場合は許可を取り消すことがある」との条件が付されている。法治国家なら当然その条件を順守しなければならない。
 だが1月27日の作業が始まったのは日の出前で、許可条件に違反する。しかも防衛局は環境影響評価書で作業開始時間を「日の出1時間程度後から」と明記している。防衛局は自ら課したルールさえ破っているのである。
 防衛局の許可区域外での作業によるサンゴ損傷も県などの調査で確認されている。許可に違反する作業を行いながら、法治国家を語る矛盾を自覚すべきだ。
 加えて言えば、法治国家が法によって国家権力を行使する際の前提は基本的人権の保障である。民意を無視する行為が県民の基本的人権をどれだけ踏みにじっていることか。政府は沖縄でも法治国家としての責任を果たすべきだ。