<社説>医療通訳不足 最優先に態勢整備を


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 沖縄を訪れる外国人観光客が急増する中、医療の面でも通訳対応の必要性が急浮上している。

 人の生死に関わることは、何をおいても取り組むべきなのは、言をまたない。道路の案内表示や観光施設での外国語対応以上に、医療面の態勢整備が求められよう。
 2月、県内の飲食店で香港人観光客が倒れた。同行者との意思疎通がままならず、救急車到着までの間、周りは十分な医療措置ができなかった。意識不明は今も続く。関係者は「人工呼吸と心臓マッサージがされていれば良かった」と語る。
 課題はその先にもある。その患者の家族は中国語の中でも広東語しか話せず、北京語は通じない。通訳が確保できないときは家族が香港にいる知人医師に電話し、それを介して説明を受ける状態だった。
 病院側は「手術で同意書が必要になっても言葉の壁で難しい。特に夜間は医療通訳を頼める関係機関もない」と窮状を訴える。
 県国際交流・人材育成財団に登録する医療通訳は100人だが、対応言語は英語とスペイン語、中国語(北京語)に限られる。同財団の資料にある外国語対応が可能な22救急医療機関のうち、20カ所は英語でしか対応できないのが現状だ。この状態で外国人観光客を誘客するのに恐怖すら覚える。
 県も医療通訳確保に取り組むが、まずは通訳育成のための講師を育成しないといけないのが現実という。人材育成は一朝一夕にはいかない。県はきちんと予算措置し、長期的観点で養成に取り組むべきだ。同時に、人命に関わるという緊急性に鑑み、24時間態勢での緊急医療通訳態勢も整備すべきだ。
 一方で参考になる事例もある。浦添総合病院はタブレット端末を用いてビデオ通話で日本電気(NEC)の通訳センターと接続する態勢を整えた。韓国語を含む5カ国語で365日24時間、対応可能だ。病院内の英語ができる職員が自身の業務を止めて駆け付ける必要もなくなり、入院患者の深夜の急変にも対応可能となった。自前の職員だけでこの状態を確保するのは極めて困難なはずだ。普及を検討していい。
 政府も観光立国をうたい、訪日外国人を2012年の1千万人から20年には倍増の2千万人とする目標を掲げる。それなら外国人救急医療体制の確保は政府の責務であろう。地方の対応を全面的に支援すべきだ。