<社説>老朽原発廃炉 再稼働と結び付けるな


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 関西電力や日本原子力発電など電力4社は、運転開始後40年前後となり、老朽化した原発計5基の廃炉を決めた。東京電力福島第1原発事故後に定めた、原発の運転期間を原則40年とする規定に従って、電力会社が廃炉を決めるのは初めてとなる。

 原発行政の転換点と見る向きもあるが、政府や電力各社の今後の動向を注視する必要があろう。老朽原発の選別を進めることで脱原発依存の実績をアピールし、再稼働への抵抗を和らげたいとの思惑が透けて見えるからだ。くぎを刺しておきたいのは、老朽原発の廃炉を進めることと、原発の再稼働とは一切無関係である点だ。
 今回、廃炉が決まった関電美浜原発1、2号機(福井県)など5基の原発は、出力が34万~55万キロワットと比較的小さく、運転を続ける場合に必要な安全対策の費用などを回収できない可能性が指摘されている。一方で関電は、運転開始から40年前後たった美浜3号機と高浜原発1、2号機(福井県)の再稼働に向けた申請を17日に行った。いずれも出力は約82万キロワットと廃炉が決まった5基に比べて大きく、収益力向上への貢献が見込まれるという。
 同じ老朽原発にもかかわらず、採算性だけで廃炉か存続かを判断するのは、福島事故の教訓に学ぶことを放棄したも同然であり、極めて危険だと指摘せざるを得ない。
 かつて原発の発電コストは安いと吹聴されたが、単なる幻想にすぎなかったことは、福島第1原発の現状を見れば、もはや説明不要だろう。事故から4年が経過したが、いまだ汚染水対策さえままならず、被害者への賠償や廃炉作業など、処理費用は少なく見積もっても11兆円規模に膨らむ。
 何より危ういのは、老朽原発でも巨額投資をして安全対策を施したから、過酷事故の心配は無用とばかりに、再稼働に前のめりになっている政府や電力会社の姿勢だ。新たな「原発安全神話」にほかならないことに、いいかげん気付くべきだ。
 そもそも廃炉には課題が山積する。核のごみが大量に発生するにもかかわらず、最終処分地確保の見通しは立っていない。当然、再稼働をすれば、行き場のない核のごみはさらに増え続ける。
 政府や電力会社が今なすべきことは、原発回帰の姿勢を180度転換した上で、廃炉の道筋を明確に示すことだ。