<社説>チュニジアのテロ 民主化に発展の果実を


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 無辜(むこ)の民を殺して何になるのか。許し難い蛮行に心が震える。

 チュニジアの首都チュニスでのテロで外国人観光客ら少なくとも19人が死亡、多数が負傷した。日本人も3人死亡、3人が負傷した。
 犯人たちはバスを降りた客を無差別に銃撃した。米国務長官や国連事務総長が語った通り、最大限の表現で非難すべきだ。
 この地は古代都市国家カルタゴだった所だ。現場のバルドー博物館は古代ギリシャやローマ、イスラム王朝の遺物を多数収蔵し、各国から多くの観光客が訪れていた。
 チュニジアは国民の2割が観光関連に従事するとされる観光立国だ。事件は、観光への打撃を狙ったイスラム過激派の犯行との見方が強い。民主化政権を瓦解(がかい)させるのが目的であろう。
 だとすれば観光を崩壊させてはテロリストの思うつぼである。影響を最小限にする支援を考えたい。
 事件がチュニジアで起きたことも衝撃的だった。2010年に始まった「アラブの春」の起点はこの国の「ジャスミン革命」だ。独裁政権が倒れた後の権力の空白の結果、国内対立が深刻化し政治危機に直面したのは各国と共通する。
 だがこの国は武力紛争ではなく世俗政党とイスラム政党が対話で民主化を進めた。曲折はあったが2月に挙国一致の新内閣が発足したばかりだ。アラブの春の当事国で唯一の民主化の成功例とされる。その国で起きた惨劇は、イスラム過激派対策の難しさを物語る。
 この国も、政治危機の裏で進行した治安の混乱や経済の低迷により、国内の若者が過激思想に感化されがちだった。「イスラム国」などの外国人戦闘員の最大の供給源はチュニジアとされる。約2万人の戦闘員のうち最多の約3千人がチュニジア出身との推計もある。
 そうであれば経済発展と治安回復を実現し、民主化に果実を与えねば真の解決にはつながらない。過激派の資金源を断つ包囲網強化と並行してこれらの国への経済支援を強めたい。
 安倍晋三首相は「国際社会と連携を深めてテロとの戦いに全力を尽くす」と述べた。テロへの外交的・経済的包囲網は強化すべきだが、他国軍と一緒に自衛隊を行動させることにつなげるなら誤りだ。今回は無差別テロだったが、日本を標的にしたテロを惹起(じゃっき)させかねない。軍事協力拡大の危険性を示したと受け止めるべきだ。