<社説>国頭林道訴訟 県は計画の全面的見直しを


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 国頭村内での8林道開設工事は違法だとして、住民が県知事を相手に公金支出差し止めなどを求めた住民訴訟の判決が那覇地裁で言い渡された。完成した2林道の請求を棄却し、未着工もしくは未完成の6林道の請求も却下した。結論だけを見れば住民敗訴だ。

 しかし判決理由の中で裁判長は計画が中止されている6林道の工事をこのまま再開することを認めていない。工事を止めるために訴訟を起こした住民にとっては実質勝訴の内容となっている。裁判所が従来の林道工事の進め方に疑問を呈している。県は重く受け止めるべきだ。
 裁判長は6林道を却下した理由の中で、これらの工事計画が環境省などから環境への懸念を指摘されていることを挙げ「相応の調査・検討をすることが求められるというべき」だと新たな環境調査の必要性を説いた。
 その上で調査・検討なしに工事を再開することに「社会通念上これを是認することはできず、社会的妥当性を著しく損ない、裁量権の逸脱・乱用と評価されかねない」と指摘した。環境への影響を考慮しないまま工事を進めることはできないと判断しており、極めて正当と言えよう。
 やんばるの愛称で親しまれる国頭、大宜味、東の3村の本島北部にはノグチゲラやヤンバルクイナなど国指定特別天然記念物や国指定天然記念物などの絶滅が危惧されている動植物が多数存在している。世界的にも生物多様性を保全する上で重要な地域だ。このため本島北部を含む「奄美・琉球」が2013年12月に世界自然遺産の候補地に選定されている。
 貴重な生態系を育むやんばるの森に林道建設が進むと、木々が伐採されて森の分断を生み、生息する動植物の生活環境に悪影響を及ぼすとの指摘が専門家から相次いでいる。地元の林業振興を考えながらも、費用対効果なども含め、新たな林道工事の必要性について慎重に検討する時期に来ている。
 県は現在、国と歩調を合わせて北部地域の国立公園指定や世界自然遺産の登録を環境行政上の重要目標に掲げている。貴重な自然の価値を将来にわたって維持していくことを目指し、県民にも呼び掛ける立場だ。
 そうであるならば県はやんばるの森を保全するためにも、従来の林道計画について、中止も視野に全面的に見直す必要がある。