<社説>児童虐待過去最多 SOS見逃さない体制を


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 子どもたちの悲痛な声が聞こえてきそうだ。

 昨年1年間に虐待が疑われるとして、全国の警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもは2万8923人(前年比33・9%増)で、統計を取り始めた2004年以降で最多となった。
 通告が過去最多となる中で、虐待による死者は前年より5人少ない20人で過去最少となった。
 2000年施行された児童虐待防止法は、実際に虐待を受けているだけでなく、虐待が疑われる段階でも児童相談所などに通告するよう国民に義務付けた。
 近隣の住民が積極的に通報し、警察も早期発見に努め、深刻な事態になる前に対処してきたことが、統計から読み取れると言えよう。
 それでも虐待によって身体や心を傷つけられた子どもがなんと多いことか。児童虐待に対する社会の関心が高まる中で、周囲の目が届かぬまま虐待によって命を落とした子どももいる。心が痛む。
 虐待と言うと、暴力や養育放棄などで死亡させるというショッキングな事例が目立つが、子どもの面前で配偶者を殴ったり、子どもに暴言を浴びせたりするなど心理的虐待が1万7158人(前年比39・0%増)と大半を占める。東京都では昨年7月、中学2年の男子生徒が父親から「24時間以内に自殺しろ」と迫られ、自殺したとされる事件があった。
 子どもの人格を傷つける言葉も虐待だと、全ての親は自覚し、心に刻む必要がある。
 警察が児童虐待防止の取り組みに力を入れる一方で、通告を受ける児童相談所はマンパワー不足だ。
 総務省が10年度公表した意識調査では、児童虐待を担当する児童福祉司の94%が負担の大きさを感じていた。この調査時点で相談件数は10年前の3・8倍になっていたが、児童福祉司の数は2倍増にとどまっていた。
 同時に受け持つ件数についても「10件以上20件未満」が妥当との回答が多かったが、実際は1人当たり31件を担当していた。これでは十分な対応は難しく、結果的に後手に回る遠因にもなりかねない。
 現場は財政難を背景に人件費抑制の流れにさらされているが、虐待の恐れがある子どもを放置していいはずがない。マンパワーを拡充し、質も高め、子どものSOSを
見逃さない体制づくりに努めたい。