<社説>農相効力停止決定 まるで中世の専制国家 民意無視する政府の野蛮


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 いったい今はいつの時代なのか。歴然と民意を踏みにじり恬(てん)として恥じぬ政府の姿は、中世の専制国家もかくや、と思わせる。

 まして民主主義の国とは到底思えない。もっと根源的にいえば、この政府が人権意識をかけらでも持っているか疑わしい。
 言うまでもなく林芳正農相が翁長雄志知事の発した作業停止指示の効力停止を決めたからだ。これで民主国家を称するとは度し難い。理は沖縄側にある。県は堂々と国際社会に訴えればいい。民主制に程遠いこの国の実相を知れば、国際社会は耳を疑うだろう。

「法治」の機能不全

 この肩書は悪い冗談としか思えないが、菅義偉官房長官は「沖縄基地負担軽減担当相」である。この人物の常套句(じょうとうく)は「法治国家」だが、農相の決定は、この国が「法治国家」としても機能不全であることを示している。
 ここまでを振り返る。仲井真弘多前知事は米軍普天間飛行場の県外移設を掲げて2010年に再選されたが、13年末に突然、公約を翻し、辺野古移設を認める埋め立て承認をした。国は沖縄の反対の民意を無視し、14年夏から辺野古沖の海底掘削調査を強行した。
 掘削に先立ち、沖縄防衛局は県から岩礁破砕の許可を得たが、その際は錨(いかり)(アンカー)投下と説明していた。だがことし1月に10~45トンもの巨大なコンクリートを投下し始め、サンゴ礁を壊しているのが海中写真と共に報じられた。
 県は実態調査のため、制限区域内への立ち入り許可を米軍から得ようと防衛局に調整を求めたが、防衛局は拒否した。現に環境破壊が進行中なのに、環境保全を管轄する県が調査すらできない。そんな「法治国家」がどこにあるか。
 県は今月23日に防衛局に作業停止を指示した。翌日、防衛省は農相に不服申し立てをして県の指示の効力停止を求めた。県は27日、却下を求め農相に意見書を出したが、県の要求は退けられた。
 そもそも行政不服審査法は国民に行政庁への不服申し立ての道を開くのが目的だ。行政庁が自らの行為の温存に使うのは本末転倒である。
 しかも審査は第三者機関がするのではない。農相は閣僚で、防衛省に停止を求めれば閣内不一致となる。停止指示できるはずがない。「法治」の根源である客観性の欠落は明らかだ。
 国は、県が許可したことを掘削強行の根拠とする。だが、数十トンもの巨大なコンクリートを「錨」と呼ぶのは詐称に等しい。しかもサンゴ破壊は県の許可区域外にも及んでいることがはっきりしている。どんな観点から見ても国の掘削は違法性が濃厚なのだ。これで「法治国家」といえるのか。

基地集中は限界

 国は、工事停止で作業が遅れれば「日米の信頼関係に悪影響し、外交・防衛上の損害が生じる」と主張する。サンゴ破壊の有無を調べるだけで「信頼」が失われるような二国間関係とは何なのか。
 まして「日米関係が悪化するから」という理由で、国内法に基づく許可を得ないまま作業を続けていいと言うのなら、県の言う通り、もはや独立国家ではない。
 辺野古移設は、地元では反対を掲げる市長が再選され、市議会も反対が多数を占め、反対の翁長氏が知事に当選し、衆院選は反対派が全小選挙区で勝利した。民主主義の観点から沖縄はこれ以上ない明確さで意思表示している。
 国は前知事の承認を大義名分とするが、公約破りに民主主義上の正当性はない。昨年の知事選で、前知事が現職としては前代未聞の大差で敗れたことからもそれは明らかだ。その民意を踏みにじり、度重なる知事の面会要求すら拒み続けて移設を強行する政府の姿は、何と野蛮であろうか。
 常識的に考えて、国土のわずか0・6%の沖縄に米軍専用基地を74%も押し込め、戦後70年を経てもなお続けようとするのは人道上も許されない。それが限界に来ている事実を政府は直視すべきだ。