<社説>マタハラ即違法 被害防止に歯止め期待


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 妊娠や出産を理由に職場で不利益な取り扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)について、厚生労働省は育児休業の終了などから原則1年以内に女性が不利益を受けた場合、直ちに違法と判断することを決めた。政府が女性の活躍を促す中、育児と仕事の両立を目指す女性にとって、大きな前進といえる。

 きっかけは2014年10月の最高裁判断だ。「妊娠による降格は男女雇用機会均等法が原則禁止しており、本人の同意がなければ違法」とした。
 厚労省の新たな通知では、女性に退職などを迫った場合、「業務上の必要性」を主張する企業側には赤字累積など経営情報の提出を求めるほか、「本人の能力不足」を理由とした際は具体的な指導内容の記録提出や同様の例で他の従業員への対応も調べるとした。
 過去に女性が不当な降格や異動をされても、企業側は「能力」などを理由に挙げ、本格的に争われることは少なかった。多くの女性が泣き寝入りしてきたとされるだけに、今回、厚労省通知が企業側に立証責任を強く求めたことで一定の歯止めが期待できる。
 被害解決に取り組む支援団体「マタハラNet」によると、実際の被害は深刻だ。妊娠中、深夜勤務になることがあり、仕事量を減らしてほしいと求めた女性は「アルバイトになるしかない」と契約変更を強要された。別の女性は「残業できないなら戦力外」と暴言を吐かれたという。
 妊娠、出産直後の女性は身体的にも精神的にも不安定な状態にある。そうした中、職場での存在を否定するマタハラは、本人だけでなく「出産」という行為自体、さらには子どもの存在までも否定されるようなものだ。今回の厚労省の通知は女性の社会参画という観点だけでなく、「働く人の幸福」という視点からも歓迎すべきものといえる。
 一方で「加害者」となるのは直属の男性上司が30%と最も多く、人事担当者や同僚女性もそれぞれ10%いる。妊娠している女性への職場の無理解は一部にとどまらないことを示す。さらにマタハラが起きる温床は「子育ては女性の仕事」という因習に基づいた女性への過度な負担であり、社会全体の子育て環境の不備にある。マタハラ対策の充実を契機に誰もが幸せに働ける環境づくりへの一歩としたい。