<社説>残業代ゼロ法案 長時間労働の温床にするな


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 働く人の命と健康を守るために労働時間の規制はある。だが、日本は世界から長時間労働がはびこっている国と見られている。その自覚はあるのだろうか。

 財界と気脈を通じた安倍政権は労働者を守るのでなく、逆方向に大きく踏み出した。政府は高収入の専門職で働く労働者に対して残業代を支払わなくて済む制度を導入するため、労働基準法などの改正案を閣議決定した。「高度プロフェッショナル制度」と銘打っている。
 第1次安倍政権の際に「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」との批判が強まり、導入を諦めた「ホワイトカラー・エグゼンプション」が息を吹き返した。
 対象に「年収1075万円以上」になる研究開発職や為替ディーラーなどの専門職を想定している。政府は、働いた時間ではなく成果で賃金が支払われ、多様かつ柔軟な働き方が可能となると強調するが、働き過ぎを防ぐ歯止めに乏しい。
 今回の制度見直しは2014年11月に施行された過労死等防止対策推進法にも逆行する。連合などの労働組合が危惧するように、残業代抜きの長時間労働の温床となりかねない。
 新制度を導入する企業に対し、長時間労働を防ぐ要件として提示されるのは「1日に連続11時間の休息」「1カ月か3カ月の労働時間の上限」「年104日以上の休日」だ。企業側は3要件から一つを選択すればいいが、いずれも抜け穴が多く、長時間労働の歯止め策としては不十分だ。
 週休2日に当たる年104日間の休日を取得させても、出勤日の勤務時間に規制がないなら、長時間労働を助長してしまう。
 本人の同意を前提としていても、社員が弱い立場にある労使関係に照らせば、残業代ゼロの「サービス残業」を半ば強要される恐れがある。その根本には対策が立てられていないのである。
 首相は財界などとの会合で「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」と公言してきた。今回の制度改変は大企業への露骨な利益誘導と見なさざるを得ない。働く者の命と健康を脅かす規制緩和を成長戦略の核に位置付けることは危うい。
 13業種から始まった派遣労働は今では原則自由化されている。今回の労基法改悪がアリの一穴となり、なし崩し的に対象職種が広がることは許されない。