<社説>ヤマネコ発見50年 共生、保護へ機運高めよう


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 284平方キロメートルの小さな島には、世界に誇る沖縄の宝が詰まっている。「東洋のガラパゴス」と称される西表島は、地殻変動で大陸とつながった歴史、豊かな水系が重なって独自の生物相がつくられた。数ある希少動植物の中でも筆頭格は「世紀の発見」といわれたイリオモテヤマネコだ。

 ことしはイリオモテヤマネコが新種として発表されてから50年の節目に当たる。西表島がある竹富町や環境省、関係する民間非営利団体(NPO)が15日に記念事業実行委員会を設立した。来年3月までシンポジウム、図画コンクールといった行事が企画されている。
 絶滅の危機にあるとされるイリオモテヤマネコの保護や人間との共生の在り方をあらためて考えるきっかけとしたい。それだけでなく西表島の豊かな自然を後世に継ぐために、人は何ができるのか。自然保護への機運も同時に高めたい。
 長年にわたって生態を調べてきた伊澤雅子琉大教授は、イリオモテヤマネコは島の食物連鎖の上位にあり、個体を守ることは島の生態系をも守ることにつながると指摘している。島全体に目配りした環境保護が重要とされる理由だ。
 伊澤教授だけでなく、多くの研究者や関係機関の知見が積み上げられ、半世紀の間に少しずつ生態が明らかにされてきた。こうした成果を広く紹介し、住民一体となって守ることも必要となるだろう。
 既に西表島では20代の夫婦らが自主的に夜間の巡回活動を4年前から始め、事故防止や啓発活動に取り組んでいる。記念事業を一過性のものとしないためにも活動のさらなる広がりが期待される。
 一方でイリオモテヤマネコの保護に関しては課題もまだ多い。天敵がいないとされた島で開発が進んだことによって生息域が狭まり、交通事故に遭う例が増えていることだ。事故死は初めて確認された1978年以来、ことし3月までに65匹が犠牲となっている。
 夜間の発生や自動車の速度超過といった傾向が明らかなだけに、一人一人の注意で解決に向かうはずだ。
 推定生息数が100頭前後とされるイリオモテヤマネコは、希少性も相まって今や西表島、沖縄の生物多様性のシンボルといえる。未来に残すべき「宝」の保護は西表島だけの課題とはいえない。節目の年に当たり、沖縄全体で自然との共生を考える契機にもしたい。