<社説>自民テレビ局聴取 民主国にあるまじき圧力


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 自民党の情報通信戦略調査会が17日にNHKとテレビ朝日の関係者を呼び、事情聴取するという。

 自民党は「圧力をかけるつもりはない」というが、呼び付けること自体、圧力以外の何物でもない。これでは表現・言論の自由は画餅に帰す。民主国家にあるまじき姿であり、聴取を中止すべきだ。
 菅義偉官房長官はよく放送法に言及する。3月末の会見でもこう述べた。「放送法という法律があるので、テレビ局がどう対応するか見守りたい」
 テレビ放送は5年に1回、政府から再免許を受けないと事業ができない。電波法は、放送法に違反した放送局に停波を命令できると定める。政府中枢があえて放送法を口にするのは「停波もできるのだぞ」と恫喝(どうかつ)するのに等しい。
 安倍政権の放送への介入は顕著だ。昨年の衆院選直前には安倍晋三首相が街頭インタビューで政権への批判が多いとかみつき、自民党はテレビ局に「選挙報道の公平、中立を求める」文書を送り付けた。
 そして今回の「召還」だ。NHKについては報道番組でのやらせ疑惑、テレビ朝日は「報道ステーション」のコメンテーター・古賀茂明氏の「官邸からのバッシング」発言について事情を聴くという。
 「第三者も加えた検証の必要性などをただす」というが、それは政権党の仕事ではない。各局は番組審議機関を持ち、業界の第三者機関として放送倫理・番組向上機構(BPO)もある。これらがきちんと機能すればいいだけの話だ。
 放送法は第1条(目的)でこう定める。「放送の不偏不党、自律を保障することで放送の表現の自由を確保する」。特定の党が番組に口を出すこと自体、「不偏不党」に矛盾する。「自律」を求める放送法の目的にも反するではないか。
 思想家の内田樹氏が興味深い話を紹介している。ドイツの新聞の日本特派員が安倍政権の歴史修正主義を批判する記事を書いたら、日本の総領事が同紙本社を訪ね、抗議したそうだ。
 これを受け元駐日英国大使がジャパンタイムズでこう論評した。「日本の歴史修正主義者の行為はナチスなどを想起させる」。政府の報道への圧力がいかに国際社会の常識に反するか、全体主義国家的であるかを如実に示している。
 テレビ局も政権党の圧力に屈したと誤解されるのは心外だろう。聴取を受けるのなら、カメラを入れて一部始終を生中継してほしい。