<社説>少年再逮捕 社会挙げた非行対策必要だ


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 背景に何があったのか。事件の暗部を解き明かさねばならない。

 不登校やニートの若者たちを支援してきた沖縄市のNPO法人代表の上江田静江さんが殺害された事件で、県警は別の窃盗事件の容疑者として逮捕、勾留していた住所不定無職の18歳少年を強盗殺人などの疑いで再逮捕した。
 県警によると、少年は盗み目的で上江田さん宅に侵入して刃物で刺し、バッグを取って逃げたことは認めているが、「初めから殺すつもりはなかった」と話している。真相究明は今後の捜査に委ねられるが、早期の全容解明が待たれる。
 少年は小学生のころ、犬と遊ぶため上江田さん宅を連日訪れていたという。上江田さんと以前から面識があったようだが、NPO法人によると、上江田さんが運営する相談支援機関や学校などの利用者や生徒ではなかった。
 捜査関係者からは「侵入したことを見られたことによる突発的で単純な犯行では」との見方がある。今回の事件と、長年の上江田さんの活動は分けて考えるべきだ。ただ事件に関して、社会全体で認識を共有すべき課題は少なくない。
 捜査などでは、少年は2年前にも上江田さん宅に窃盗目的で侵入したことなどが明らかになっている。「礼儀正しく気さくで明るい子」だったという少年はなぜ非行を繰り返すようになったのか。
 子どもの居場所づくりの活動に関わる地元関係者からは「誰かに支えられたり助けてもらったりしていたら変わったかもしれない」との声が上がった。指摘を重く受け止めたい。
 昨年上半期の県内の全刑法犯に占める少年の割合は32%で、全国の23%を大きく上回る。深夜徘徊(はいかい)などの補導も極端に多く、共犯率や再犯率も高い。極めて深刻な状況にあり、強い危機感を覚える。
 沖縄少年院を仮退院した少年らの実態調査が昨年公表され、保護者の養育放棄(ネグレクト)や暴力・暴言を受け、非行に追い込まれていく県内の厳しい状況が浮き彫りになった。少年の非行は家庭の貧困とも深く関わっていた。
 子どもたちの居場所づくりや非行少年の就労支援、親への支援・指導などの総合的な取り組みが、沖縄にとって喫緊の課題であることを今こそ再確認したい。活動に情熱を注いでいた上江田さんもそう望んでいるのではないか。