<社説>物価目標“断念” アベノミクスを見直せ


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 経済浮揚を図るための劇薬を用いたが、その限界が浮かび上がってきた。日銀は物価を「2年で2%上昇」させる目標を掲げてきたが、事実上の断念に追い込まれた。

 4月30日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)は、物価上昇率2%の達成時期について「2016年度前半頃」と記した。1年以上の先送りである。
 市場関係者の間では、先送りした達成時期さえ、実現を困難視する見方が支配的になっている。
 黒田東彦総裁は原油価格の下落と個人消費の伸びの鈍さを理由に挙げた。原油安の余波で物価はほとんど上がらず、消費増税の影響で個人消費、企業の設備投資も伸びない。3月の消費支出は前年比2桁の下げ幅を記録した。
 安倍晋三首相の肝いりで就任した黒田総裁の下、日銀は2013年、物価下落と賃金、消費の落ち込みによって景気が低迷するデフレから脱却するため、物価上昇目標を導入した。並行して、金融の大胆な量的緩和に踏み切った。
 いずれもショック療法と言っていい。あれから2年、アベノミクスの副作用が鮮明になっている。
 2万円を突破した一時的な「株高」と日本経済の実態は明らかなずれがある。給与は上がらず、景気回復を実感できる国民は少ない。
 そもそも、物価目標とは何か。
 消費者物価指数が前年より目標数値分上昇するよう、金融政策を遂行するものだ。国民がモノやサービスを多く買うようになれば、企業の業績が上向き、賃上げや投資増につながる。それに伴って物価は自然に上がるという算段だ。
 黒田日銀は好循環を生むため、2%のインフレ目標を達成するまで、市場に流すお金の量を増やす金融緩和を続けると宣言した。
 日銀が市場に流すお金の量は2年前に比べ倍以上となり、量的緩和の一環として年80兆円規模で国債を購入している。新規国債額のほぼ倍という異常さだ。日銀が政府の予算を賄っているに等しい。
 春闘で大手企業を中心に賃上げもあったが、中小零細企業への恩恵は薄い。市場には追加緩和を促す声もあるが、消費も設備投資も伸びない中、今以上に国債を買い増しても景気は上向くまい。もはや禁じ手である。
 金融緩和頼みの経済政策は財政破綻や急激なインフレなど、国民生活への代償が生じかねない。アベノミクスを見直す決断が必要だ。