<社説>医療事故続発 信頼回復へ情報開示を


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 医療に対する信頼が、揺らぎつつある。厚生労働省は腹腔(ふくくう)鏡手術後の患者死亡が相次いだ群馬大病院と、禁忌鎮静剤を投与された2歳児が死亡した東京女子医大病院に対し、高度医療を提供する特定機能病院の承認を取り消す処分を決めた。

 神戸市の民間病院では、生体肝移植を受けた患者7人のうち4人が術後1カ月以内に死亡した。この事例では、日本肝移植研究会の調査報告書が「スタッフの体制や手術計画に問題がなければ3人は救命の可能性があった」と指摘した。
 いずれの例にも共通するのは、患者側への説明や情報提供の不足であり、病院内での報告・連絡の不備がある。医療事故が起きるたびに繰り返されてきた指摘であり、再発防止に向け、克服すべき課題は明確といえる。
 こうした状況の中で、医療法の改正により、ことし10月から医療事故調査制度が始まる。対象となるのは医療機関が「予期しなかった」死亡か死産の例だ。
 医療機関は発生を第三者機関に届け出ると同時に院内調査を進め、調査結果は遺族に説明するとともに第三者機関にも報告する。第三者機関は調査結果を分析し、再発防止のための啓発活動を行う。一方、遺族側の求めがあった場合にも第三者機関は調査を実施できる。
 調査制度はあくまでも再発防止を目的としており、医師をはじめとする医療従事者の責任追及の場ではない。個人の責任を問われれば現場の萎縮を招きかねないという医療側の主張に配慮したものだ。
 医療事故再発防止へ新たな制度ができることは歓迎したいが、課題もまだ多い。例えば群馬大病院では最初の死亡例が2010年に起きたにもかかわらず、病院長に報告があったのは14年6月だった。手術を担当した医師による手術前後の記録が少なかったことも調査で分かっている。東京女子医大でも調査に医師らの非協力的な態度があった。
 調査制度を支えるのは医療側の自発的な情報・資料提供に懸かっている。最も情報を望む遺族側への情報提供も口頭の説明だけで、調査報告書交付は医療機関の努力義務にとどまり、不満は残る。
 過去の例に学べば、医療事故を防ぐには事後の調査制度だけではまだ不十分だ。信頼を取り戻すためには、医療機関・従事者の積極的な情報開示こそが近道であろう。