<社説>新卒採用日程変更 人材確保へ知恵絞ろう


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 来春大学を卒業する学生の採用日程を繰り下げる経団連のルール変更に対し、企業側に戸惑いが見られる。その懸念を踏まえつつ、制度の定着に向けて企業、大学などが共に努力する必要があろう。

 2016年春の採用に向けた企業の会社説明会は3月1日に解禁され、大学生の就職活動が本格化したが、経団連の日程ルール変更により、開始は従来より3カ月遅くなった。
 面接などの選考活動の解禁も4カ月繰り下げられ、4年生の8月1日に変更された。だが正式な採用内定の解禁は10月1日に据え置かれたため、中小企業などには採用が「短期決戦」となることで、優秀な人材が大手に流出してしまうことへの懸念が強まっている。
 人手不足を背景に学生優位の「売り手市場」傾向にあることも懸念に拍車を掛けている。求人おきなわの調査では、来春卒業生を「採用しにくくなる」との県内企業の割合は56%に達した。
 採用日程の変更は、就職活動の早期化で学業に支障が出ているとの大学側の指摘を受け、経団連が2013年9月に定めた採用選考の指針に基づくものだ。
 学生生活は、自己の将来をじっくり見詰め、研さんを積む大切な期間だ。就活の負担を軽減し、学業に割く時間を増やそうという変更の狙いは十分理解できる。優れた人材が大学でしっかり育つという点で企業も本来歓迎すべきだろう。新日程には、海外に留学して6月ごろ帰国する学生も就活に間に合うというメリットもある。
 ただ経団連の指針は紳士協定で、加盟企業が違反しても罰則はない。そもそも外資系企業は指針に縛られず採用活動をしており、「解禁破り」の企業が相次ぐという見方もある。だが、だからといって朝令暮改するわけにはいくまい。
 企業の懸念と向き合いながら、経済団体や大学などが連携してルールの浸透、順守へ取り組むべきだ。
 企業側には学生へのアピールがこれまで以上に求められる。節度を保ちつつ、インターンシップ(就業体験)などの機会も生かし知恵を絞りたい。
 新卒者に偏った採用方法の再考を求めたい。「就職氷河期」という言葉があったが、卒業時の経済情勢しだいで若者の正社員の門戸が狭まるような在り方は本来おかしい。通年採用や既卒者採用などの枠を広げることは、多様な人材の確保にもつながるはずだ。