<社説>憲法審査会始動 「お試し改憲」は姑息な手法


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 憲法改正論議の舞台となる衆院憲法審査会が実質的な審議をスタートさせた。自民党は改憲の優先課題として大災害に備える緊急事態条項、環境権、財政規律条項の条文追加を提案し、各党の理解を得やすい項目で合意形成を狙う姿勢を鮮明にした。

 自民党の悲願である「戦争放棄と戦力不保持」を定めた9条改正には異論が根強いことから、まずは他党の協力が比較的見込める3項目に絞って改憲の実績づくりを進める戦略だ。
 3項目での改憲は、国民に慣れさせるための「お試し改憲」(民主党)と批判されても仕方あるまい。本当の目的は9条改正なのに、国民の目をごまかして反発を抑えようとする手法は「姑息(こそく)だ」と言わざるを得ない。
 9条改正への抵抗感を少しでも和らげておくためのカムフラージュ、偽装にすぎない。
 9条を後回しにして、別の項目を先に持ち出したのは初めてではない。安倍晋三首相が2012年の第2次政権発足後に打ち出した改憲発議要件を緩和する96条改正論があった。「裏口入学」などと批判され撤回したが、「お試し改憲」もできるだけ国民的関心を遠ざけ、9条改正に近づくための技巧的手法である点で共通している。
 先の3項目についても、なぜ憲法改正まで必要なのか、国民には分かりにくい。
 環境権では「憲法13条の幸福追求権や25条の生存権などで対応できる」「具体的な権利や事業差し止め請求権などを個別法で定めることが重要」といった指摘がある。環境問題に詳しい学者の間でも「憲法を改正してまで盛り込む必要があるのか」と懐疑的な声が上がっている。
 緊急事態条項でも「人権の不当な制限につながる恐れがある」と疑問の声も上がる。
 「憲法はGHQ(連合国軍総司令部)の素人がたった8日間で作った」などと、今の憲法を「押し付け」とさげすんでいる首相の下での憲法改正論議は非常に危うい。中身ではなく、まずは憲法を改正すること自体が目的になってはいないか。
 改憲は日本の将来を左右する問題だ。内容も時期も、慎重かつ丁寧に議論を重ねていくべきだ。われわれの生活にも大きく影響する問題であり、当然ながら国民は傍観者にならずに主権者として議論の行方を注視しなければならない。