<社説>与党の安保合意 乱暴な変更は許されない


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 日本の安全保障政策は重大な岐路にある。国民的な合意もないまま、大きく変質させようとする現状は極めて危うい。

 自民、公明両党が安保法制の与党協議会で関連法案の全条文に正式に合意した。政府は14日に法案を閣議決定し、国会に提出する。
 自国への攻撃がなくても他国への攻撃を実力で阻止する集団的自衛権の行使が可能となり、自衛隊の武力行使の範囲が地球規模で拡大する。自衛隊は日本周辺に限らず他国軍を後方支援できるようになり、平時から有事まで活動が大きく広がる。
 法案は、武力攻撃事態法や周辺事態法など改正対象の法案10本を一括した「平和安全法制整備法案」と、国際紛争に対処する他国軍の後方支援を随時可能とする新法の「国際平和支援法案」の2本だ。
 いずれも「平和」の名称が付くが、憲法の平和主義に基づく「専守防衛」の大原則を逸脱する内容であり、強い違和感を覚える。何より、複雑で多岐にわたる法案を一括で提出、審議する手法はおかしい。あまりに乱暴だ。
 与党協議会は、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更の検討を求める安倍晋三首相の指示を受け昨年5月に設置された。協議会の議論を踏まえ、政府は昨年7月に集団的自衛権の行使容認を閣議決定。協議会はことし2月、国会に提出する法案内容を詰めるため議論を再開した。
 議論は自衛隊の任務を拡大させたい政府、自民党のペースで終始進んだ。公明党は、国際平和支援法に基づく自衛隊派遣の際の国会の事前承認などを実現させたが、「歯止め役」としての役割を果たせたとはとてもいえまい。
 安倍首相は4月末の米議会での演説で、安保法案について「この夏までに成就させます」と述べ、国会への法案提出前に成立を米側に約束した。国会軽視も甚だしいが、与党協議は結局、この首相方針を追認しただけではないのか。
 だが国民は集団的自衛権や安保法制に厳しい見方を崩していない。
 共同通信の4月末の全国世論調査では今国会で成立を図る首相の方針には48・4%が反対し、賛成を10ポイント余り上回っている。法案成立に前のめりとなる政府、自民の姿勢とは明らかに距離がある。
 国論も割れる中、海外での武力行使を禁じてきた国是の大転換を安易に認めてはならない。