<社説>簡易宿泊所火災 困窮高齢者の住宅支援を


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 弱い立場にある高齢者の住まいをどう確保するか。今回浮かび上がった課題を重く受けとめたい。

 川崎市で簡易宿泊所2棟が全焼する火災が発生し、5人が死亡した。宿泊者の9割が生活保護を受けていた。誠に痛ましい限りだ。
 簡易宿泊所は首都圏など各地にある。戦後、建設業や船舶の荷下ろしなどの仕事を求めて、全国から集まってきた日雇い労働者を数多く受け入れてきた施設だ。
 労働者の多くは高齢化し、現在では同じ宿泊所に十数年滞在する人もいるなど「住宅」として利用する人が多い。身寄りがない高齢者も多く、健康面でも多くの人たちが問題を抱えているという。
 今回全焼した施設には沖縄出身者も生活していた。
 沖縄民謡を聴くのが楽しみだったという県出身男性(63)は胃と肺に病気を抱え、食事は昼も夜もインスタント麺で済ませていた。3畳の自室で1時間100円のテレビを見る生活だったが、火災後「何もする気が起きない」と話した。胸がふさがる思いだ。
 被災した2棟は木造2階建てと申請していたが、事実上3階建ての構造で、建築基準法違反の疑いが指摘されている。警察と消防などは市内の簡易宿泊所への特別立ち入り検査を始めた。
 一方、国土交通省は火災を受け、簡易宿泊所の防災面の確認や指導を徹底するよう各都道府県に文書で通知した。徹底的な調査が必要なことは言うまでもない。
 2009年に群馬県渋川市で10人が死亡した老人施設火災など、高齢者が入所する施設で過去に多くの火災が発生したことから、避難時に介助が必要な人を入居させる施設には原則、スプリンクラーの設置が義務付けられた。13年の福岡市の診療所火災を受け、病院なども16年度から設置が義務付けられるが、簡易宿泊所は対象外だ。
 日雇い労働者を想定した簡易宿泊所は、高齢者に適した造りではないとの指摘もある。防火対策や避難訓練などの対策が急がれるが、規制強化だけでは問題は解決できず、高齢者が住まいを失う恐れも出てくる。
 高齢化が進む中、1人暮らしや生活に困窮する高齢者の住宅整備は社会全体で取り組むべき課題だ。簡易宿泊所への支援の在り方と併せて、アパートなど代わりの住まいに貧しい高齢者が移れるような支援も議論すべきではないか。