<社説>「誇張報道」発言 海保長官は事実直視を


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 根拠のない批判は言い掛かりにすぎない。海上保安庁の佐藤雄二長官の発言はまさにそれである。

 名護市辺野古沖での海保の海上警備をめぐる琉球新報など地元紙の報道について、長官は定例会見で根拠を示さないまま「誇張されている部分があると感じる」と述べた。
 「誇張」と断定する根拠を示し得ないために「感じる」と付け加えたのだろう。それでも長官発言は報道の根幹に関わる。不見識極まりない中傷発言であり、直ちに撤回すべきだ。
 長官は臨時制限区域に進入した抗議船が転覆し、乗っていた4人と海上保安官が海に投げ出されたことに言及しており、その記事を「誇張」と捉えたとみられる。
 本紙は「抗議船1隻が浮具(フロート)を越え、スパット台船近くまで進入した。海上保安庁のゴムボート2艇が取り囲み、複数の海上保安官が乗り込んだ際、船体が左に傾き転覆した。乗っていた市民と保安官は海に投げ出された」と記述した。
 事実関係に誤りはない。その証拠に第11管区海上保安本部の話も掲載したが、記事との食い違いはない。とすれば、それ以外の記述を「誇張」としていることになる。
 記事には、救急搬送された男性が「転覆後も水中に頭を押さえ付けられ意識が遠のいた」と話したことや、市民らが「過剰警備だ」として国家賠償請求と艦船転覆罪で告訴を検討していることが書かれている。
 転覆した船に乗っていた人に話を聞くことは報道機関として当然である。それが「誇張」に該当しないのは明らかだ。「意識が遠のいた」とする人の話に「誇張」があったとでも言うのだろうか。
 長官は「現場は冷静かつ丁寧に対応している」とも述べている。事実とは懸け離れている。
 辺野古沖では女性の首に足を巻き付けてカメラを奪おうとしたり、ゴムボートの後方から特殊警備救難艇で衝突して乗り上げたりするなど、海保の暴力警備が日常化している。
 そのどこが「丁寧」といえるだろうか。暴力を容認することは許し難い。
 もはや海保の行為は警備ではなく、暴力そのものである。長官に求められることは報道を中傷することではない。辺野古沖で海上保安官が暴力を振るっている事実を直視し、改善することである。