<社説>NPT会議決裂 「核なき世界」後退許さない


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 国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終文書案をまとめられず閉幕、決裂した。

 事実上の核保有国イスラエルの非核化を念頭に置いた「中東非核地帯構想」の扱いなどをめぐり、加盟国間の対立が埋まらなかったのが主な原因だ。
 NPTを基盤とする核の秩序が揺るぎかねない事態であり、核リスクが一気に高まる可能性さえある。残念だ。
 1980年代には7万発超の核兵器が存在したといわれる。数は徐々に削減されたが、いまだ世界には約1万6千発の核兵器が残っている。
 サイバーテロが現実的脅威となる中、サイバー攻撃が核保有国の核管理・統制システムを機能不全に陥らせ、核の誤発射や偶発使用を招かないとも限らない。
 核保有国の現状に目を向けると、米国とロシアはウクライナ情勢で対立し核軍縮交渉は停滞している。北朝鮮の核開発計画は不透明さを増しているし、中国は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実戦配備に動いている。
 また、包括的核実験禁止条約(CTBT)は米中などの未批准で発効していない。核廃絶に向けて兵器用核物質の生産停止が不可欠だが、そのための条約交渉は始まってもいない。
 世界は依然として核の危機にさらされたままだ。核戦争が起きれば人類の破滅に至る。核兵器は1発でも多過ぎる。
 今回の会議が決裂したからといって核軍縮を停滞させていいはずがない。核の被害に国境はない。核使用や戦争で真っ先に理不尽な被害を受けるのは私たち、市民だ。
 核廃絶という世界的目標の再確認とともに、核の脅威を低減するための現実的かつ具体的な取り組みへの国際的な総意形成を急がねばならない。
 今後、オーストリアなどを中心に、NPTの枠外で核兵器の非合法化を目指す動きが出るかもしれない。2国間交渉や国連などの場に限らず、国際社会は協調して核廃絶へ取り組みを進めていかなければならない。
 日本は唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界へ向け、国際的な取り組みをリードしていく重要な使命を負っている。外交努力を加速させなければならないのは当然だ。「核なき世界」への取り組みを後退させることは許されない。