<社説>邦人人質事件検証 再発防止に生かせるのか


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 身内中心の検証の限界を露呈した。政府に都合のよい内輪の論理が際立ち、説得力に欠けている。残虐性を強めている国際テロ組織から邦人を守れるか、再発防止の有効打になるのか、大いに疑問だ。

 安倍政権は中東の過激派組織「イスラム国」(ISIL)による邦人人質事件の対応を検証した報告書を公表したが、「結論ありき」の印象が拭えない。
 後藤健二さんら2人の救出に向けた政府の対応について「人質救出の可能性を損ねる誤りがあったとは言えない」と総括している。
 果たしてそうだろうか。人質救出に向け、政府が関係国とどんな交渉を行ったかが焦点の一つだったが、具体的な記述はない。
 45ページに及ぶ報告書は抽象的な内容ばかりで、個別の対応の詳細は不透明なままである。
 報告書には「日本の立場を適時・適切に発信できた」など、「適時」「適切」という言葉が頻繁に出てくる。「できる限りの対応を取った」という擁護調の表現もある。
 検証作業は内閣官房副長官を委員長に据え、首相官邸、外務省、警察庁などの幹部が中心となった。緊迫した局面の対応の検証を官僚主導で実施したことで、客観性と緻密さに疑義が生じている。
 安倍晋三首相ら、政府対応の判断に関わった政治家は聴取されていない。国会で報告書を厳しく再検証する議論は不可欠である。与野党に徹底した議論を求めたい。
 最大の焦点は、邦人2人がイスラム国に人質に取られている可能性を把握していた安倍晋三首相が1月に中東を歴訪した際の演説の評価だった。
 首相は「イスラム国と戦う周辺各国を支援する」と言明し、2億ドル拠出を表明した。3日後、イスラム国は首相を批判して2億ドルを要求する映像を公開した。
 首相演説について報告書は「問題はなかった」としたが、イスラム国を名指しした影響度をどう検討し、問題がなかったと結論付けた根拠は何も記されていない。有識者から「脅迫の口実とされた。対外発信には十分に注意を」との注文が付いた。
 総じて外交による事件の未然防止策が乏しい一方、報告書は危険地域への邦人の渡航制限を挙げた。
 基本的人権の擁護、報道の自由の観点から、過度な渡航制限論が強まることは避けねばならない。政府の対応に目を光らせたい。