<社説>ネパール大地震 復興に向け日本の糧生かせ


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 ネパール大地震の発生から1カ月がたった。だが、拡大する一方の被害の把握が追い付かない混乱が続き、復興には程遠い状況だ。

 アジアの最貧国の一つで山岳の小国を襲った未曽有の災害に国際社会を挙げて向き合い、実効性のある復興支援を一層拡充したい。
 阪神・淡路大震災、東日本大震災を経験した災害多発国の日本には復旧、復興のノウハウがある。果たすべき役割はとりわけ大きいはずだ。
 最優先課題は約810万人に上る被災者の住居の確保だ。しかし、甚大な被害と立ち遅れた社会資本整備が災いし、テントなどの救援物資が十分に届いていない。
 12日に起きた余震を含めると、犠牲者は9千人に迫り、全半壊した家屋は70万棟を超えた。自宅の倒壊を恐れる市民は屋外での生活を余儀なくされている。各国が支援したテントが行き渡らず、防水シートを張っただけの簡易テントで過ごす市民も多い。衛生面の悪化に伴う精神的負担は大きい。
 16日に被災状況をまとめた国連児童基金(ユニセフ)によると、「助産施設」の7割が倒壊した。6月半ばまでの1カ月間に1万8千人の母親と新生児が生命の危機に直面すると予測した。
 6月に本格化する雨期には洪水の恐れがあり、はしかやコレラなどの感染症の拡大が懸念される。農地の被害も大きく、田植えが滞り、食糧不足に陥る可能性もある。
 首都・カトマンズのダルバール広場など、世界遺産を含む約580の歴史的建造物が全壊か一部損壊した。貧困から抜け出す原動力だった観光産業は壊滅的打撃を受けている。耐震建築などが進まず、もろいれんが積みの一般住宅が崩れ、犠牲者数の拡大を招いた。
 日本政府は1400万ドルの緊急無償資金を提供し、医療チームの派遣などを進めている。短中期の復旧支援では奮闘する非政府組織などが把握する被災地のニーズを踏まえ、臨機応変な対応を急ぎたい。さらに二つの大震災の教訓を生かし、仮設住宅建設や学校や農地の再建、耐震強化など、長期的復興を見据えた具体的支援策も強化すべきだ。
 今回の大地震では県内に留学中のネパール出身の若者の肉親が犠牲になり、追悼行事や募金活動があった。人の痛みをわが事のように受け止める「肝苦(ちむぐり)さ」の心を持ち、沖縄からできる支援も続けたい。