<社説>自衛隊派遣基準 拡大の歯止めにならない


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 新たな安全保障法制で安倍晋三首相が自衛隊海外派遣の判断基準を示した。だがその活動が際限なく広がる懸念は深まるばかりだ。

 安倍首相は海外派遣に関し(1)日本が主体的に判断する(2)自衛隊の能力、装備、経験に根ざしたふさわしい役割を果たす(3)前提として外交努力を尽くす-の3基準を示し、これらを「重要な視点として政策判断を下していく」と表明した。
 だが一般的で抽象的な理念を述べたにすぎない。「基準と呼べる内容ではない。それらしいことを並べてごまかしている」(憲法学者の小林節慶応大名誉教授)と厳しい批判が上がるのは当然だ。
 首相は、日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」の認定要素も説明した。
 説明によると「実際に武力紛争が発生し、または差し迫っている場合」に、日本に戦禍が及ぶ可能性や国民に及ぶ被害などの影響の重要性、事態に対処する米軍や外国軍隊の活動内容などを考慮し、派遣については判断する。
 戦禍が及ぶ可能性など具体的に何を指すのか、これも極めて分かりにくく、自衛隊活動拡大の「歯止め」になるとは到底思えない。
 新たな基準には、自衛隊がなし崩し的に海外に派遣されていくことへの国民の懸念を払拭(ふっしょく)する狙いがあろう。各種世論調査で法案に反対意見が多いことも首相の念頭にあろうが、説明でむしろ国民の不安は拡大したのではないか。
 安保関連法案が成立すれば日本が直接攻撃を受けていなくても集団的自衛権の行使が可能となり、日本周辺を想定していた米軍への後方支援が地球の裏側まで広がる。
 だが肝心の武力行使の3要件さえ具体的基準が定まっていない。首相は3要件の基準に関し「一概に述べることは困難」と説明する一方、南シナ海での自衛隊活動を示唆するなど武力行使の拡大に含みを持たす。政府の裁量でいかようにも判断できるような法案は非常に危険だ。
 首相は国会審議で何度もやじを飛ばし陳謝に追い込まれた。首相は2月にもやじで陳謝している。何とも情けないが、国会は29日も外相答弁をめぐって紛糾した。議論の深入りを避ける政府側との議論はかみ合わないままだ。
 安保政策を大転換し国の在り方も変える法案の審議が不十分でいいわけがない。説明を尽くせないような法案は取り下げるべきだ。