<社説>南沙埋め立て 「紛争の海」にするつもりか


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 中国人民解放軍の孫建国副総参謀長が南沙諸島での岩礁埋め立てが軍事目的を含むと明言した。

 軍事力をちらつかせるのは地域の緊張をいたずらに高めるだけだ。南シナ海を「紛争の海」にしかねない危険な綱渡りである。
 中国は3千メートル級の滑走路建設も始めた。孫氏の発言は、カーター米国防長官が中国を名指しして即時埋め立て中止を求めたことへの返答だ。米国はこの海域へ軍用機や艦船を派遣する構えも見せる。既に偶発的な軍事衝突すら起きかねない事態だ。
 中国と東南アジア諸国は2002年に「南シナ海行動宣言」を発した。宣言は「武力行使や威嚇に頼ることなしに領土・管轄権紛争を解決することに同意する」とうたう。埋め立てが宣言に違反するのは誰の目にも明らかだ。中国は埋め立てを直ちに中止すべきだ。
 中国はなぜ強硬なのか。列強に植民地化されたことへの屈辱感が根強く、その一時期を除けば世界に冠たる国だったとの自負心も強い。植民地化された時期に定まった現在の国境は不当だとの思いが潜んでいるようだ。南沙は、中国が文革で国内に目が集中していた隙に、周辺の5カ国・地域が実効支配を進めたとの思いもある。国際政治学者はそう指摘する。
 しかし国境線が時期によって異なるのはどの国にもいえることだ。過去にさかのぼり、任意の一時期に国境線を引き直し始めたら収拾がつかなくなる。アヘン戦争以来の不当な歴史への反発は分からないでもないが、国際社会が受け入れ可能な解決は、現状を凍結した上での外交交渉以外にはない。「力による現状(国境線)変更」など到底許容できないことを、中国は知るべきだ。
 日本も外交的解決に貢献すべきだ。その意味で中谷元・防衛相の発言は軽率に過ぎる。東南アジア諸国の監視強化を提唱し、日米が連携して関与する方針まで述べている。米国が自衛隊に米軍の肩代わりを求めているのは周知の事実だ。発言は、安保関連法案の言う「重要影響事態」として、この海域まで自衛隊を出すという宣言に等しい。
 外交的解決にまるで反するではないか。いたずらに緊張を高め合うのでなく、前述のように中国の内在的論理を認識した上で、隣人として諭すべきなのだ。そして偶発的衝突を避ける仕組みづくりにこそ最大限の努力をしてほしい。