<社説>憲法審で全員違憲 安保法制は廃案しかない


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 集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案について、衆院憲法審査会の質疑に招かれた憲法学の専門家3人の参考人全員が「憲法違反」との認識を表明した。この中には自民、公明両党が推薦した専門家も含まれている。法案が憲法違反であることは明らかだ。安倍晋三政権は法案そのものを取り下げるべきだ。

 政権与党の自公両党の推薦で審査会に参加した早稲田大の長谷部恭男教授は、集団的自衛権行使について「憲法違反だ。従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない。(憲法が禁じる)外国の武力行使と一体化する恐れが極めて強い」と述べた。民主党の推薦で発言した慶応大の小林節名誉教授も「憲法9条は、海外で軍事活動する法的資格を与えていない」と述べ、9条違反との見解を表明した。
 憲法違反だと指摘するのは審査会に招かれた専門家3人だけではない。法案に反対する憲法学者らが「憲法9条が定めた戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認の体制を根底から覆す」として廃案を求める声明を出した。賛同する憲法学者は5日時点で180人を超えた。
 憲法上、長らく禁じてきた集団的自衛権の行使容認については内閣法制局は過去に「憲法改正が必要」と答弁してきた。歴代の内閣法制局長官経験者は行使容認に反対している。
 これに対して中谷元・防衛相ら政府側は「合憲」と主張したが、何の説得力も持ち合わせていない。
 国民の多くが政府の説明責任が十分ではないと感じている。共同通信が5月末に実施した全国電話世論調査では政府による法案説明に81・4%が「十分に説明しているとは思わない」と回答した。
 琉球新報と沖縄テレビ放送が5月末に実施した県内電話世論調査でも法案の今国会成立を目指す安倍政権の方針について、73・2%が「反対」と回答した。沖縄戦体験世代に当たる70歳以上の人では81・1%にも上る。県民の大多数は日本が戦争へと突き進むための法案成立に強い危機感を抱いている。
 戦後70年という節目の年に政府は戦後の安保政策を大転換させようとしている。しかし国民、県民をはじめ、専門家、内閣法制局の歴代長官らも懸念を示している。政府はこうした声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。法案を廃案にするしか選択肢はない。