<社説>戦没者焼骨停止 全遺骨のDNA鑑定を


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 苛烈な沖縄戦で失った肉親の遺骨を今も捜し求める遺族にとっては朗報だ。県内で見つかる沖縄戦の戦没者遺骨をめぐり、県は焼骨方針を転換し、当面は全ての遺骨を保管することを決めた。

 高温で遺骨を焼くことによってDNA(遺伝子)鑑定を困難にし、戦没者を特定して遺族とつなぐ望みが断たれてきた。県内には3月時点で未収骨の3015柱の遺骨があると推計される。毎年見つかる多くの遺骨の身元特定が増えることが期待される。
 戦後70年の節目を迎え、焼骨停止を求める声が強まったことなどから県は決断を下した。住民を巻き込む凄惨(せいさん)な地上戦でついえた命の痕跡をたどり、身元判明の可能性を高める意義は大きい。県の対応を評価したい。
 菅義偉官房長官は5月に身元が特定されていない戦没者の遺骨からDNAを採取し、可能な限りデータベース化する方針を示した。国は遺品がない場合でもDNA鑑定の条件を緩和する姿勢に傾いており、県の決断の要因にもなった。
 戦没者の特定と遺族への遺骨返還は戦争を引き起こした国の責務のはずだ。遅きに失した感があるとはいえ、当然の対応だろう。
 遺骨の保管をめぐっては曲折があった。2014年6月、糸満市摩文仁の仮安置室が満杯に近づき、県は一時保管する戦没者の遺骨を随時、焼骨する方針を決めた。反発の声が上がり、県議会は翌7月、DNA抽出が終わるまで焼骨せずに保管することなどを県が国に求めるよう決議した。焼骨停止を求める機運が高まっていた。
 県内では03年度から50体が鑑定されてきたが身元判明は4体にとどまる。本土や海外の遺骨の身元判明率は5割を超えるが、県内の判明率は5%に満たない。高温多湿で遺骨や遺留品が傷みやすく、着の身着のままで戦火にさらされた住民の遺留品も乏しいのだ。
 識別できる遺品があるなどの条件を付すDNA鑑定要件を沖縄に適用するのは厳し過ぎた。
 誤った戦争を仕掛けた国策の犠牲となった戦没者の身元判明と遺骨が戻ることを切望する遺族の無念に思いを致し、国は全遺骨の鑑定に踏み出すべきだ。
 県の試算では、仮安置室と同規模の保管施設が年間20万円で確保できる。財政面の負担は小さい。その増設も急がねばならない。