<社説>初の交通政策白書 生活者視点の公共網整備を


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 政府は交通政策基本法に基づく初の交通政策白書を閣議決定した。高齢化社会を見据え、お年寄りが自ら車を運転することなく便利に暮らせる社会を目指し、公共交通による「生活の足」確保を重要とした点が特徴だ。

 公共交通網整備による利点は主に二つある。年々増える高齢者の交通事故防止と市場拡大による経済効果だ。
 警察庁の統計によると、交通事故による死者は全体で減少傾向にあるが、死者に占める65歳以上の割合は2012年度に初めて5割を超えた。高齢者の事故のうち、歩行中と自動車・二輪車運転中の事故の割合は半々だ。事故原因はアクセルとブレーキの踏み間違いなど「意識と行動のミスマッチ」が多いのが特徴とされる。
 判断力の衰えを自覚していても、通院や買い物など、暮らしのさまざまな場面で車が必要とされる地域で暮らすには車が手放せない。そうした人々も公共交通を活用できれば、安全かつ確実に移動でき、事故は大幅に減らせるだろう。
 もう一つ重要なのが市場拡大への期待だ。次世代型路面電車(LRT)を導入し、集約型のまちづくりを進める富山市の例が参考になる。富山市の集計では、LRTによる外出機会は平日に60代で3・6倍、70代で3・5倍と飛躍的に増大した。下落傾向が続く沿線地価が下げ止まり、沿線での建築着工件数は富山市全体が減少する中でも増加していた。
 まちの中心部に医療・福祉関連の総合施設などを集中し、沿線の商店街、住宅地に延びるバスと連動させる計画が奏功したといえる。
 内閣府の世論調査(2014年)では、将来「子どもたちとは別に暮らす」と回答した人が36・3%で最も多く、今後高齢者が自立した生活を送るのは確実だ。そうした人々の生活の質を保障する上でも公共交通の整備は欠かせない。
 沖縄でも北部広域市町村圏事務組合が、名護市を中心に北部一円をバスで結ぶ実証実験を本年度以降に始める。
 通院などこれまで不安視されていた居住条件の改善につながれば、人口流出への歯止めとなることも期待できる。
 県内では5年後の2020年に65歳以上の人口が、総人口の22%を占める超高齢社会に入ると推計される。誰もが暮らしやすい社会をつくるためにも生活者視点による交通網整備を目指したい。