<社説>安保法案 立憲主義に従い撤回を


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 集団的自衛権の行使に法的根拠を与える安全保障関連法案をめぐり、反対論が高まっている。

 国会で与野党が合意して招致した憲法学者3人が、全員「憲法違反」との認識を表明した。この指摘は重い。かつて自民党に所属した議員ら与野党の重鎮4人も法案の成立に反対した。自民党の元閣僚も反対している。しかし、安倍政権はこうした意見に耳を傾けようとしない。
 法案が憲法違反であることは明らかだ。集団的自衛権が一内閣の憲法解釈変更によって可能になるということ自体、憲法破壊行為である。安倍内閣は直ちに法案を撤回すべきだ。
 中谷元・防衛相は集団的自衛権が「違憲」と指摘されると「憲法解釈の変更は政府の裁量の範囲内」「憲法違反であるとは思っていない」と答弁した。しかし、歴代の自民党政権や内閣法制局長官は「集団的自衛権は憲法上行使できない」と説明してきた。驚くことに将来、安保環境が変われば解釈が再変更される可能性にも言及した。
 政府の「裁量」で憲法解釈を次々に変更する行為は、憲法によって国家権力を縛る立憲主義に反する。
 安倍晋三首相は3学者の違憲発言について、最高裁の砂川事件判決を再び持ち出して集団的自衛権行使容認の根拠とした。昨年、与党公明党にも批判された主張だ。この訴訟では、日本が集団的自衛権を行使できるのかという問題は、まったく論議されなかった。判決時の弁護団が主張するように「国民を惑わすだけの強弁」にすぎない。
 安倍首相は、戦後首相になった石橋湛山(たんざん)の発言を重く受け止めるべきだ。石橋は2・26事件後、軍国主義が強まる中で次のように発言した。「今日の我が政治の悩みは、決して軍人が政治に干与することではない。逆に政治が、軍人の干与を許すが如きものであることだ」。政治が軍の暴走に手を貸した結果、無謀な戦争を引き起こしたという教訓だ。
 戦後、政府が反対を押し切って自衛隊を発足させるとき、同様の事態を招かないように「文民統制」の原則を採用した。しかし安倍政権は、数の力で文民統制を取り払ってしまった。石橋の指摘通り「政治が軍の干与を許すが如き」行為ではないか。歴史に学ばない政権は危険極まりない。