<社説>福島復興指針改定 安心し帰れる環境づくりを


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 政府は東京電力福島第1原発事故で多大な被害を受けた福島の復興指針を改定した。三つの避難指示区域のうち「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を事故から6年後の2016年度末までに解除する。このほか事業再建に向けた支援を2年間に集中実施する方針を盛り込み、被災者の自立を強く促す姿勢を打ち出している。

 避難住民の帰還促進や賠償から事業再建支援への転換が狙いのようだ。しかし避難指示解除の目標を16年度末に設定している根拠がはっきりしない。地元では帰還への環境が整っていないとの不満の声が根強く、一方的な切り捨てと受け止められても仕方ない。丁寧な対応が必要ではないか。
 年間被ばく線量20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下の「居住制限区域」と20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」の人口は約5万4800人で避難指示区域全体の約7割を占める。生活基盤や健康被害への不安は根強く、避難指示が解除されても帰還が進むのかは不透明だ。
 田村市都路地区は避難指示解除から1年を経過しても帰還した住民は約4割だ。解除だけでは問題解決にならないのは明らかだ。
 また第1原発に近く、放射線量が依然高い50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」の解除時期は明示されていない。ほぼ全域が「避難指示解除準備区域」の楢葉町は今春以降の帰還を目指している。一方で面積の96%が「帰還困難区域」の双葉町は目標時期を決められない。
 事故後、政府は原発からの距離や放射線量で一方的に線を引き、住民は引き裂かれてきた。これ以上、地域のコミュニティーや住民の分断を拡大してはならない。
 同時に政府は改定で賠償の終了時期を明示した。東京電力が両区域の住民に支払っている精神的損害賠償は17年度末で一律終了する。事業者への営業損害と風評被害の賠償も16年度末で打ち切られる。
 政府はこれまでの「賠償」という形から「生活支援」に移行したい考えだ。しかし住民や事業者の置かれた状況はまちまちだ。地域の実情に即したきめ細かい対応をしなければ、無責任な賠償打ち切りと受け取られても仕方ない。内堀雅雄知事が「住民が安全に、安心して帰れる状況を2年間でつくり出せるかどうかだ」と述べたように、住民が安心して地元に戻れるよう、政府は全力で取り組む必要がある。