<社説>派遣法改正案 待遇改善が骨抜きになる


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 労働者派遣法の改正案をめぐる衆議院の委員会審議が終わり、19日にも採決される見通しとなった。

 派遣社員と派遣先企業の社員の待遇を均等に近づけ、賃金格差を縮める理念が骨抜きにされている。派遣労働者の待遇改善の道筋は見えない。このまま成立すれば、企業側に有利な形で派遣労働が固定化される懸念が拭えない。
 全国で111万人と推計される派遣労働者の待遇を改善することは安定した雇用環境を創出し、日本経済全体にも好循環をもたらす意義がある。
 国民生活と経済に関係が深い重要法案である。その問題点をもう一度見詰め直し、よりよい法律にする議論が不可欠だ。今国会で成立させるべきではない。
 改正案は、派遣労働の期限を事実上撤廃することになる。
 一つの職場への派遣期間の上限を一律3年に定めるが、企業側が所定の手続きを取れば、期間は更新され、同じ派遣労働者の雇用を続けることができる。派遣事業者が3年を過ぎて働く意欲を持つ人の雇用継続を求めても、派遣先に拒まれれば打つ手がない。
 政府案に対抗し、野党の民主党、維新の党、生活の党は派遣社員の待遇改善を図る「同一労働同一賃金推進法」案を提出していた。
 野党は徹底抗戦してきたが、維新が野党案を修正して自民党と共同提出することで歩み寄り、委員会採決に応じた。野党は分断され、法案はあるべき姿から後退した。
 自民と維新が折り合った改正案には疑義が残る。受け入れ企業にとって都合がいい低賃金の派遣労働が継続しかねない。派遣社員の正社員化と雇用の安定に対する企業側の努力を促す実効性に欠ける。
 「同一賃金法案」は派遣社員と正社員の待遇をめぐり、同一賃金の「実現を図る」としていた。採決される改正案は、核心部分に定義があいまいな「均衡の取れた待遇」が加えられた。賃金格差が温存される恐れがある。
 さらに1年以内の立法を義務付けていたが、「3年以内」「立法を含む」という記述に変わった。
 改正案の問題点を補う野党案をかなぐり捨てる形で安倍政権、与党と妥協するのはなぜか。野党第2党の維新の対応に疑問が残る。
 このまま、改正案が成立すれば、人件費抑制と雇用の調整弁の役回りを担わされる派遣社員が増えかねないと危惧する。